今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「ほら、子どもの頃の唯は超我がままで、着物の着付けもお茶も生け花もやりたくないって、先生を困らせて全部キャンセルしたじゃない?」

「あれは……」

 すべて舞のやったことだ。そう言いたいのに、再び向けられた鋭い視線に口をつぐむ。

「唯のせいでしょ?」

 高圧的にそう言われても、絶対にうなずかないと唇をかんだ。

 両親は、私たちにそれらのレッスンを受けさせようとした。藤沢家の人間は、代々そういった技術や知識を身につける習わしだったからだ。舞はそれを、『面倒だ』『古臭い』といつも馬鹿にしていたけれど。

 子どもにとって、長時間の正座はかなり辛い。講師は穏やかな人ばかりだったが、レッスンは集中力を要する大変な時間だった。

 私は祖母と過ごす中で正座に慣れていたとはいえ、レッスンは遊びとは違って緊張を強いられ、とても疲れていた。

 でも、楽しみだったのも事実。

 幼い頃に一緒にいた祖母は、いつも着物を着ている人だった。背筋をすっと伸ばした彼女の凛とした姿が、幼心にかっこよく見えていた。

 祖母は花を生けたりお茶をたてたり、私との遊びの中で見せてくれた。ますます祖母に憧れ、自分もできるようになりたいと思うようになっていく。

 レッスンを受けるようになったのは、祖母が亡くなった後のこと。
 少しでも祖母のようになれると、わくわくする私とは対照的なふくれっ面の舞。彼女にとってレッスンは退屈で、苦痛な時間でしかなかった。

 舞はいつも『やりたくない!』と文句をいい、部屋から逃げだして講師を困らせてばかりいた。それが数回続き、すべての講師から教えるのは無理だと辞退されている。
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