今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「実は……」

 そうして、ここ数カ月の間に起こったすべてのこと順に打ち明けていく。

 身代わりで花嫁修業をしているところまで話すと、藍は烈火のごとく怒りをあらわにした。

「ごめん。でも言わせて。おかしいわよ。あなたのご両親はなにを考えてるのよ! 舞だってそうよ。子どもの頃から嫌な子だって思ってたけど、未だにそんなことをしているの!? ていうか大人になった分、やってることがいたずらでは済まないレベルだわ」

 あの家族の中にいると、すっかり感覚が麻痺しかけていた。『おかしい』と言ってくれる藍の存在に、無性にほっとした。

「それでお相手の……高宮蓮さんだったかな? 唯はその人と暮らしているのね?」

「うん」

「邪険にされていない?」

「もちろん。蓮さんは私をすごく大切にしてくれてるし、お義母様ともいい関係を築けてる」

 彼との間に起こったことを話したら、藍はどう思うだろうか。わずかな不安を胸に、ゆっくりと口を開く。

「蓮さんに、私は舞だと偽り続けているの。だけど彼は、私の内面に惹かれたって言ってくれて。それが本当にうれしかった」

「当然よ。唯は優しくてがんばりやだもの。私の大事な親友よ」

「ありがとう」

 舞の仕打ちに落ち込んでいると、藍はいつもこう言ってくれる。

「それで、ね」

 ん?と首を傾げる彼女に、誰にも言えなかった隠し事を明かしていく。

「私も、蓮さんを好きになってしまって。その、舞だと偽っている立場で、こんなことはダメだってわかっていたんだけど……」

 コーヒーをひと口含んで、なんとか緊張をほぐす。

「彼と、関係を持ってしまったの。それで私……妊娠しているの」

 ついに言ってしまったと、うつむいて手を握りしめる。

「……唯?」

 心配そうな藍の声になにも答えられず、ひたすら下を向く。

「それ、蓮さんや義理のご両親には話していないの?」

 同じ姿勢のまま、こくりと首を縦に振った。

「もし私たちの入れ替わりがバレたら、藤沢屋がどんなことになるのか怖くて」

「唯のご両親には……ああ、あの人たちには言えないわね。唯には悪いけれど、ご両親はあなたを不幸にしてばかりだもの。味方になってくれるとは思えない」

 そう言われても仕方のない姿を、子どもの頃から藍にも散々見せてしまっている。

 こんな話を聞かされて、さすがに藍も困惑しているかもしれない。
< 80 / 111 >

この作品をシェア

pagetop