今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 翌日の夜になり、藍から電話がかかってきた。

『唯ならいつ来てくれてもいいって言ってたわよ。あっ、あとね、住む場所も困っているなら、私の部屋で生活をしてくれてかまわないから。明日から店はお盆休みに入るから、その間にあなたを住み込みで受け入れる準備をしておくわ』

「藍……ありがとう」

『あなた今、でもさすがに迷惑になるわとか言おうとしてたでしょう?』

 藍はすべてお見通しだ。

『いい、唯。妊娠中のあなたが、行く当てもなく困った状態でいることの方が、私たちにとっては迷惑だわ。心配で、なにも手につかなくなるじゃない』

 どこまでも私を思ってくれる藍に、堪えきれずに涙が込み上げてくる。

「ありがとう……本当に、ありがとう」

『なに泣いてるのよ。私と唯の仲じゃない。唯は私を助けてくれた、大切な親友よ』

 子どもの頃から積極的で、正義感の強かった藍。彼女が正しい振る舞いをするほど、周囲からは『うざい』と仲間外れにされていた。
 私は彼女のまっすぐなところが好きだったから、声をかけただけ。助けたとか、そんな大げさな話じゃない。

 でも、藍たち家族の提案は本当にありがたい。このままでは、妊娠が舞や両親に知られて堕胎を迫られていたかもしれない。

『なにかあったら、いつでも連絡してくるのよ』

 藍のおかげで、先の見通しはついた。
 最初は迷惑をかけてばかりになるだろうけれど、どれだけかかっても絶対に恩は返す。そう決めると、不思議と悪阻の症状も収まっていった。





< 82 / 111 >

この作品をシェア

pagetop