今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 十月に入り、ようやく暑さもやわらいできた。

 私の妊娠は、誰にも気づかれていないはず。お腹はまだ膨らんでいないし、体の調子もよくなった。
 蓮さんとの関係も良好で、仕事のない休日はふたりで過している。カフェに連れて行ってくれたり、私の買い物について来てくれたり。
 特別なお出かけももちろんうれしかったけれど、ほのぼのとした時間も私のお気に入りだ。

 残念ながら、今日の蓮さんは休日出勤をしている。そこで、気分転換にひとりで買い物に出かけることにした。
 目指すは書店。妊娠について正しく知るために、本を購入するつもりだ。

 藍とは頻繁に連絡を取っており、正式に住み込みで働かせてもらうことが決まっている。彼女と今でも交流があることを、両親も舞もおそらく知らないだろう。だから、そう簡単には見つからないはず。

 蓮さんには、何度も打ち明けようかと心が揺れた。けれどそのたびに藤沢屋のことが頭に浮かび、なにも言えないでいる。

 目的のお店に到着し、じっくりと本を選ぶ。
 イラストが多くてわかりやすいものに決め、それから食材の購入に向かう。

 いつものスーパーまで通りを歩いていたところ、数メートル先のホテルから一組の男女が出てくるのが見えた。

 腕を組み、頬を寄せてなにかをささやき合っている。明らかに親密な様子で、単なる友人の距離とは思えない。おそらく、恋人同士なのだろう。

 高身長の男性は、身を屈めると彼女の額に口づけた。ここで別れるらしく、彼は横づけされたタクシーにひとりで乗り込む。

 手を振って見送っていた女性が、不意にこちらを振り返った。

「舞……」

 距離があっても、彼女だとすぐにわかった。
 思わず舞を見る目が鋭くなる。すると彼女は、片方だけ口角を上げて見せた。
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