今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
つかつかと、舞が私の方へ向かってくる。目にした光景が衝撃的すぎて体が動いてくれず、その場でとどまり続ける。
「久しぶりね、唯」
私の目の前で足を止めた舞が、にこりと微笑む。
不貞の現場を目撃されたというのに、彼女に悪びれる様子はまったくない。
「そうだ唯、お茶でもしない? あいつ、仕事だって帰っちゃったから暇なのよね。お小遣いをもらったし、今日は私がおごっちゃう」
私の肩を軽く小突いた舞は、「行くわよ」と歩きだしてしまう。有無を言わせない彼女の態度にため息を吐き、渋々後に続いて近くのカフェに落ち着いた。
「……舞、さっきの――」
「やあね、唯。あの男は単なるお友達よ」
「お友達って……ホテルから出てきたじゃない」
「それがなに?」
あっけらかんとした調子で返す舞に、絶句する。
明らかに関係を持っているだろうに、〝お友達〟なんて呼び方をしている。
付き合いをしている相手、というわけではないのだろう。この様子だと、舞にはそういう相手が複数いるのかもしれない。
「べつにいいじゃない。相変わらず、唯は堅いんだから」
「でも、あなたには婚約者がいるのよ。いくら今は私が花嫁修業をしているからって、もう数カ月もしたら結婚するんだよ」
「それがなに?」
鬱陶しそうに舞が言う。
「私はまだ独身なんだし、咎められるなんておかしいわ」
そう言ったきり、舞は運ばれて来たケーキを食べ始めた。
「蓮さんは」
チラッと私に向けられた視線は、すぐに再び手もとに戻る。まったく興味ないといった舞の態度に、苛立ちが募った。
「会社のために、休む間もないほど働いているの」
「時間の使い方が、下手なんじゃないの?」
小ばかにしたような言い方をされて、思わずむきになってしまう。
「そうじゃないわ。藤沢屋と提携することで、やらなければいけないことが増えているの」
「ふうん」
「万が一、私たちの入れ替わりがバレたり、今日の話が高宮家に伝わったりしたら、どうなるか考えてみて。この縁談には、藤沢屋の社員の命運がかかっているのよ」
私が必死に訴える間、彼女はフォークでケーキを突いている。
なにを言っても、舞にはまったく響いていない。聞いているのかも怪しい。
「久しぶりね、唯」
私の目の前で足を止めた舞が、にこりと微笑む。
不貞の現場を目撃されたというのに、彼女に悪びれる様子はまったくない。
「そうだ唯、お茶でもしない? あいつ、仕事だって帰っちゃったから暇なのよね。お小遣いをもらったし、今日は私がおごっちゃう」
私の肩を軽く小突いた舞は、「行くわよ」と歩きだしてしまう。有無を言わせない彼女の態度にため息を吐き、渋々後に続いて近くのカフェに落ち着いた。
「……舞、さっきの――」
「やあね、唯。あの男は単なるお友達よ」
「お友達って……ホテルから出てきたじゃない」
「それがなに?」
あっけらかんとした調子で返す舞に、絶句する。
明らかに関係を持っているだろうに、〝お友達〟なんて呼び方をしている。
付き合いをしている相手、というわけではないのだろう。この様子だと、舞にはそういう相手が複数いるのかもしれない。
「べつにいいじゃない。相変わらず、唯は堅いんだから」
「でも、あなたには婚約者がいるのよ。いくら今は私が花嫁修業をしているからって、もう数カ月もしたら結婚するんだよ」
「それがなに?」
鬱陶しそうに舞が言う。
「私はまだ独身なんだし、咎められるなんておかしいわ」
そう言ったきり、舞は運ばれて来たケーキを食べ始めた。
「蓮さんは」
チラッと私に向けられた視線は、すぐに再び手もとに戻る。まったく興味ないといった舞の態度に、苛立ちが募った。
「会社のために、休む間もないほど働いているの」
「時間の使い方が、下手なんじゃないの?」
小ばかにしたような言い方をされて、思わずむきになってしまう。
「そうじゃないわ。藤沢屋と提携することで、やらなければいけないことが増えているの」
「ふうん」
「万が一、私たちの入れ替わりがバレたり、今日の話が高宮家に伝わったりしたら、どうなるか考えてみて。この縁談には、藤沢屋の社員の命運がかかっているのよ」
私が必死に訴える間、彼女はフォークでケーキを突いている。
なにを言っても、舞にはまったく響いていない。聞いているのかも怪しい。