今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~

藤沢家の断罪 SIDE 蓮

「ただいま」

 一週間の出張を終えて、ようやく帰宅できた。

 靴を脱いでいると、中からパタパタと駆けてくる音が聞こえる。
 それがいつもより大きい気がするのは、彼女が早足になっているからだろうか。それほど俺の帰宅を待ちわびていたのかと勝手に想像し、思わず口角を上げた。

 婚約者の入れ替わりなど、バカなことを仕出かした藤沢家に思うところはある。しかし、こちらに有利に話を進める理由にできるのならちょうどいい。

 やって来た婚約者についても、面倒だが都合のいい存在としか思わない。

 しかし一緒に過ごしているうちに、彼女の内面に触れて惹かれずにはいられなかった。

「お帰りなさい」

 いいことでもあったのか、声のトーンがいつもより高い。

 季節の変わり目から、唯はどうにも体調が思わしくなかったようだ。たまに沈んだ顔を見せることもあって気がかりだったが、今日は調子がいいようだ。

 目の前の問題をすべて片づけて、罪悪感で苦しむ彼女を安心させてやりたい。その一心で休日も詰めて働いてきたが、それもようやく終わりが見えてきた。

 はやる気持ちをこらえながら、背後を振り返る。

「お前は誰だ?」

 やっぱりか。
 足音の大きさも声のトーンの違いもプラスに考えたかったが、どれも違ったようだ。
 予想できていたこととはいえ、ため息が漏れる。

 俺が家を空けた一週間を、この女はチャンスだと捉えたようだ。

「誰って、舞に決まってるじゃない。あなたの婚約者の」

「藤沢舞で、間違いないな?」

 念を押すように尋ね返す。

「もちろんよ。さあ、蓮さんお夕飯にしましょう。今日は三ツ星シェフの手掛けた、話題の料理注文したのよ。食べてみたかったのよね」

 俺の感情の変化に気づかないまま、ペラペラとしゃべり続ける目の前の女に苛立ちが募る。

 唯は、こんな話し方をしない。派手なメイクも彼女のもとは違うし、この女のように爪をごちゃごちゃと飾り立てもしない。食事も、健康を考えたものを手作りしてくれる。
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