今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「唯はどこへ行った」

「……はあ?」

 それまでより数段低い声でそう返した舞は、表情を一変させ不快をあらわにする。

「唯なんて関係ないじゃない。あなたの婚約は私、舞よ」

「今さらのこのこ出てきて、よくそんなことが言えたな。唯をどこへやったんだ?」

「あいつ、ばらしたっていうの!?」

 目を吊り上げて敵意をむき出しにする様子は、唯と一卵性の双子とは到底思えないほど醜い。

「唯はなにも言わない。こちらが気づいていただけだ。彼女がここへ来た当初からな」

 苛立ちをあらわにしていた舞の表情が、驚愕に変わる。だがそれも一瞬のことで、再び不機嫌になった。

「唯のことなんて、知らないわよ。でももう、私と蓮さんの結婚は決まっているの。今さら覆すなんて言わせないわ。そんなことをしたら、高宮蓮は散々婚約者を弄んで、簡単にポイ捨てする男だって言いふらしてやる」

「藤沢家の立場を、わかっていないのか?」

 親の金で遊び惚けているというのに、この女は藤沢屋に興味すらないのだろう。

 この数カ月のうちに、藤沢屋はうちの援助がなければ経営が回らないように仕向けてきた。本来ならそこまでするつもりはなかったが、唯を軽んじ婚約の入れ替えを認めるような人間など信頼できない。トップの交代を見込んでのことだ。
 後戻りのできないところまで進めてきた事業も、凍結ではなく藤沢屋の買収を選択する。その根回しも、もう済んでいる。

「君が理解しているわけがないか。藤沢屋に籍があるとはいえ、ほとんど仕事はしていないようだしな」

「うるさいわね。人のことを、とやかく言わないでちょうだい」

 この女と話していても無駄だと、喚く舞を放って各方面に連絡を入れる。

「ここから出ていかないわよ。高宮家に嫁ぐのは、私なんだから!」

 室内で好き勝手されるのは腹立たしいが、ここで一気に決着をつけられるのなら好都合。

 間違いなく、すでに唯はこのマンションを出て行ってしまったのだろう。いや、舞に追い出されたというのが正解だ。わかっていたこととはいえ、胸が苦しくなる。
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