今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 彼女を抱いたあの夜意外、唯は一度だって想いを告げてはくれなかった。

 けれど俺を慕ってくれているのは間違いないと、普段の振る舞いから確信している。

 いつか本当のことを話してくれるだろうかと思っていたが、藤沢屋の今後がかかっていたのだ。自分の言動ひとつで社員らを路頭に迷わせる不安から、唯が打ち明けられるはずがないことも理解している。

 双子が入れ替わるタイミングを待つのがベストか。関係者がそろった場で舞の本性を暴かなければ、これまでのようにこの女は唯に責任をすべて押しつけて逃げかねない。そうなれば、諸悪の根源は罰せられないまま真面目な唯だけが苦しめられることになる。

 唯を苦悩させてしまうが、藤沢屋の買収計画を進めるにも時間が必要だった。

 幸い、唯の居場所は把握している。もちろん、彼女が大切にされていることも。
 だから今は、唯が二度と傷つかないでいられる環境を整えることに専念する。

 しばらくして、俺の両親と唯の両親がマンションに集まった。

「な、なによ。なんでパパたちもいるのよ」

 状況がわかっていないだろう舞は、途端に慌て始めた。だが、強気な態度は崩さない。

 俺の対面に座った藤沢夫妻は、そろって顔が青ざめている。今さら後悔をしても、もう遅いというのに。

「藤沢さん、とういうことか説明してもらいましょうか」

 父もいるが、藤沢屋の案件に関わっているのは俺だ。この場はすべて、俺に任せてくれている。

「ど、どういうというか……」

「唯さんと舞さんが、花嫁修業の間だけ入れ替わっていた件ですよ」

 こちらはすべて把握していると示すと、藤沢社長は額の汗をしきりに拭いながら視線を泳がせた。

「そ、その、ですね。舞は着付けや茶華道など、必要だと思われる技術や知識は身についていまして……」

 白々しい言い訳だが、すべて吐き出すまでひとまず口を挟まないでいる。

「唯は、幼少期から本当に飽き性でして。そういった習い事は逃げ出してしまっていたんです。先生方も、匙を投げるほどで」

「昔から、どうしようもない子だったのよ」

 舞がふてぶてしい態度で、さも事実であるかのように言い放つ。それを藤沢夫妻は慌ててたしなめようとするが、聞くような娘ではない。子どものように、フンっとそっぽを向いた。

 あまりの態度に、母は絶句し父は首を小さく横に振っている。この女性が嫁いでくるなど、とてもじゃないが受け入れられない。
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