今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
 実のところ、父からは藤沢家と縁続きになることすらストップをかけられるところだった。それに待ったをかけたのが、俺と母だ。母にとっても、唯は手放しがたい存在になっていた。

「そ、それが、ですね。今度こそきちんと学びたいと唯が我がままを言いまして。それを受けて、この子が花嫁修業は唯にさせてあげたいと申し出てくれたので」

 藤沢夫人は、慈愛に満ちた目を舞に向ける。その言い分を、本気で信じているというのか。

「優しい姉だと、そう言いたいのですが?」

「え、ええ」

 この男に、さらに話す内容など持ち合わせていないだろう。

「それでは、これはどういうことなのか。説明をしていただきましょうか」

 そうして、藤沢家に関する調査資料を抜粋して読み上げていく。

「当時働いていた使用人は、皆口をそろえて唯さんを優しくて聡明な子だと証言していますよ。逆に舞さんに関しては、我がままがひどく癇癪持ちで、両親の前でのみいい子を取り繕っていたと」

「誰よ、ふざけたことを言ったのは。でっち上げもいいとこだわ」

 そう言いきった舞の隣で、藤沢夫妻は戸惑いを見せる。

「そ、それは、本当のことかね?」

 信じられないといったところか。この夫婦は、いったい娘たちのなにを見ていたのか。
 いや、なにも見ていなかったのだろう。だからこんな事態を招いているのだ。

「舞さんは常に、自身の失敗をすべて唯さんのしたことだと押しつけていた」

「ほ、本当か、舞」

「そんなわけないじゃん。悪いのは唯なんだから」

「唯さんがうちで暮らしていた間の、舞さんの動向についても調査会社に依頼してありましたが」

 舞は高宮に嫁ぐと吹聴して異性の気を引き、複数人と関係を持っていたこと。さらには、自分は唯だと騙って遊び歩くときもあった。

 藤沢夫妻の顔色がますます悪くなる。
 どれだけ長い間、唯を傷つけてきたのか。今さら気づいても遅い。
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