バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される

 数日後。
 成瀬貴大は、いつものように連絡も入れず、詩織の住むマンションのドアを開けた。
 仕事帰りの疲労は年々濃くなる。役職が上がるにつれストレスは増える一方だ。

「どいつもこいつも好き勝手言いやがって。市民はワガママばかり、部下は使えないアホばかり。ああ、エリートはやることが多くて辛いぜ」

 苛立ちを隠さないまま、今日も詩織の要領の悪い家事に文句をつけてやろうと、不機嫌な足取りでリビングへと進む。

「おい、飯はできてるんだろうな」

 乱暴に投げかけた言葉に、応える声はない。
 いつもなら、ドアの開く音と同時に玄関へ駆けつけ、申し訳なさそうに頭を下げる詩織の姿がない。
 静まり返った室内は、電気すら点いていなかった。
 キッチンを見渡しても、皿の一枚も並んでおらず、当然、出来立てのおかず5品などどこにもない。

「おい詩織! どこにいる、隠れてないで出てこい!」

 貴大は声を荒らげて寝室や洗面所のドアを乱暴に開ける。しかし、どこにも人の気配はない。

「ちっ。あいつ、俺の許可なく出かけやがったな」

 激しい苛立ちとともにダイニングへ戻った彼は、ガランとした食卓の上に、一枚の白い封筒が置かれているのを見つけた。
 封筒を乱暴に破り、中の便箋を引っ張り出す。そこには、詩織の几帳面な文字が並んでいた。

『貴大さんへ。私はこの家を出ます。これ以上、あなたとの婚姻生活を続けることはできません。離婚を希望します。なお、今後の連絡や交渉はすべて、私の代理人である弁護士を通して行ってください。明日以降、弁護士から連絡が行きます』

 一文字ずつ読み進めるうちに、貴大の顔は怒りで赤黒く染まる。
 貴大は便箋を両手のなかでクシャクシャに握りつぶし、床へと投げ捨てた。その紙を、地団駄を踏むように踏みつけた。

「クソ! クソ! このクソッタレのドアホ!!」

 何度も何度も足を踏み鳴らし、そのうち、息を切らせる。

「ふーっ、ふー……」

 貴大の額からは、汗が滴り落ちた。
 それをシャツの腕で拭ってから、ニタリと笑う。

「こんなのハッタリだ。低賃金介護士の詩織に、弁護士なんか雇えるもんか」

 静まり返った部屋のなかで貴大は、へばりつくような、醜悪な笑い声をあげた。
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