バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
第4話:俺だよ
「これで全部かな」
段ボール箱を棚の上に載せ、少しだけ汗ばんだ鷹木が振り返った。
上質なシャツの袖を捲り上げた姿には無駄がない。慣れない力作業のはずなのに、彼はあっという間に片付けてくれた。
部屋の窓からは、柔らかな光が差し込んでいる。
小ぢんまりとした、良い部屋だ。
勤め先のデイサービスを運営している会社は規模が大きく、都内にいくつか従業員用の借り上げアパートを所有していた。
弁護士である鷹木が同席した上で、緊急事態だからと、詩織の上席から本社へと掛け合ってくれた。おかげで、驚くほどの速さでこの部屋への入居が決まったのだ。
鷹木がホームセンターで買ってきてくれた段ボール箱に、自分の最低限の荷物だけを詰め、置き手紙を残して、詩織は家を出てきた。
「ありがとうございました、引っ越しまで手伝ってくださって」
詩織は深く頭を下げた。
ただでさえ心細い状況の中、ここまで動いてくれた彼に対する感謝は、いくら言葉にしても足りない。
「いいんですよ。こういうのは、さっさと出てしまった方が進めやすいものだから」
鷹木は穏やかな声でそう言うと、捲り上げていた袖口を丁寧に下ろした。
詩織は小さく息を吐き、静まり返った室内を見渡す。
「出ていきたいと思っていたけど、こんなに早く叶うなんて」
ぽつりと呟いた声が、室内に吸い込まれる。
あの息の詰まるようなマンションで、いつ帰ってくるかわからない貴大の足音に怯える毎日を、もう、過ごさなくて良いのだ。
大型の家具や家電は置いてこざるを得なかったが、この部屋は家具家電付きだから生活に支障はない。
どのみち、貴大と一緒に使ったものには触れたくはない。
これから仕事を続けながらお金を貯めて、ここを出る時に自分の気に入ったものを新しく買い直すつもりだ。
胸の奥に、確かな灯火のような前向きな感情が宿っていくのを感じていた。
「本当に、開梱は手伝わなくていいんですか?」
鷹木が気遣うように、積まれた段ボール箱へと視線を向けた。
「はい。ゆっくり、作業しますから」
詩織は少しだけ肩を上げながら笑った。
彼に対する遠慮もあったが、何より今は、一人になって静かに自分自身と向き合う時間が欲しかった。
鷹木はそれ以上無理に踏み込もうとはしなかった。
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