バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
宿に向かいながら、鷹木は慎重に車を走らせていた。
目的地までは、もうすぐだ。ダッシュボード上の時計をチラチラと見ながら、できるだけ何気ない思いつきを装って、鷹木は口を開いた。
「あ、展望台があるみたいだ。ちょっと外に出ないか?」
「本当? 行ってみたい」
助手席の詩織は、予想通り迷うことなく快諾してくれた。
その弾んだ声を聞いた瞬間、鷹木は心の中で小さなガッツポーズをする。
車を止め、外へ出る。夕暮れの房総の海風は穏やかで優しい。
土産物店で買った揃いのTシャツの上にカーディガンを羽織った姿で、詩織と二人、駐車場から展望台へと続く緩やかな階段を登る。
「わぁ、すごく綺麗」
フェンスが見えてくると、詩織は子供のように走っていった。
視線の先、水平線の彼方には、夕暮れの赤やオレンジに美しく輝く太陽が見える。
「見て慧さん、かもめがいる」
「本当だ」
はしゃぐ詩織を見つめながら、鷹木は、緊張のあまり激しく上がってしまいそうになる呼吸を必死に押さえつけていた。
綺麗だ。
夕日に照らされ、詩織の横顔が柔らかなオレンジ色に染まっている。懸命に空高く飛ぶ鳥を見つめる彼女の瞳が、夕暮れの波間のようにキラキラと輝いていた。
空と海。
その美しい境目を見つめながら微笑む詩織は、この後、一体どんな顔をするだろうか。
驚いて飛び跳ねるだろうか。
それとも、泣いてしまうだろうか。
だが、きっと喜んでくれる。
鷹木は、ポケットの中に入れた小さな箱を、手の中でじっと握りしめる。
ビロードの布が貼られた、手のひらサイズの四角い箱。
中にはシンプルな指輪が入っている。
プロポーズ用のファッションリングだ。
本物の婚約指輪は、詩織の好みに合うものを贈りたい。彼女がOKしてくれたら、一緒に買いに行きたいと思っている。
一緒に買いに行く――。
その未来の光景を想像しただけで、ほのかに顔が赤くなる。
だが、今ならこの不自然な火照りも、夕日の反射のせいだと誤魔化せそうだ。
キューキューと、かもめが鳴いた。
詩織は、満面の笑顔のまま大きな空を見つめている。
「詩織」
鷹木は、世界中の砂糖をかき集めたような甘い声で、最愛の恋人の名を呼ぶ。
振り返った詩織は、光り輝く太陽そのもののように、眩しく微笑んだ。
おしまい

