バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される

「きゃぁあ!」
「うわぁ」

 大きな歓声とともに、頭上から大量の水しぶきが降ってくる。

「大丈夫か、詩織」
「だいじょ……やだ、ふふふ。慧さんの方がずぶ濡れ」
「はっはは」

 二人の晴れやかな笑い声が、客席の喧騒に重なる。

「すごかったな、シャチのショー」
「思のほか濡れちゃいましたね」
「……でもそのおかげで、初めて詩織とペアルックができた」

 鷹木は土産物店で調達し着替えたばかりの揃いのTシャツを指しながら、子供のように嬉しそうに言った。
 今日はようやく訪れた、約束の房総デートの日だ。


 あの嵐のような夜から、数ヶ月が経った。
 西園寺麗子が書いたという記事は、正式に捏造であると認められた。簡単な調査で判明するほど、杜撰な構成だったらしい。
 翌週には謝罪と訂正文が週刊誌に大きく掲載され、B社から詩織の勤め先の本社へ、正式な謝罪とそれなりの額の見舞い金が支払われた。
 名誉棄損で訴え出ることはしないまま、介護施設には穏やかな日常が戻った。

 鷹木もまた、麗子に『今後二度と自分と詩織に近づかない』という厳格な念書を書かせたうえで、あの夜の傷害罪の訴えは起こさなかった。
 麗子のためではなく、西園寺判事のためだ。

 しかし、その彼も間もなく法曹界を去った。
 引退は一身上の都合と報道されたが、鷹木と詩織の元には、直筆の丁重な謝罪の手紙が届いた。

 『仕事ばかりで、家族に向き合って来なかった自分への罰だと思う。真摯に、娘と対話を重ね、二度と同じ間違いを起こさないよう導くことが、自分の人生の最後の仕事だと思っている』

 そう、静かな筆致で書かれていた。


 それからの数ヶ月、忙しく仕事に駆け回った鷹木と、余暇の時間を全て資格試験の勉強に捧げた詩織は、長いことデートらしいデートができなかった。
 先日、ケアマネージャーの試験がようやく終わり、晴れて、今日の約束を果たせたのだ。

 詩織は社宅のアパートを引き払い、正式に同棲を始めている。
 同時期に、鷹木は愛知県にある詩織の実家へ挨拶に行ってくれた。

 初めは『応援したいけど、離婚したばかりなのに大丈夫なのか?』と心配していた両親も、実際に鷹木を目にすると、もろ手を上げて喜んだ。
 帰り際には父親が『娘を一生よろしく』と、先走った言葉まで口にしており、詩織は彼の隣でずいぶん恥ずかしい思いをしたものだ。

 鷹木と過ごす毎日は、穏やかで温かい。
 忙しい時は寸暇を惜しむように、そうじゃない時はたっぷりと。二人きりの時間を楽しみ、育んでいる。

 ずっと、こんな毎日が続きますように……。

 そう、願わずにはいられない。



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