バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
部屋には、張り詰めた空気が満ちていた。
鈴川法律事務所の面談室。大きな部屋に置かれた長机を挟んで、詩織と鷹木、そして対面には成瀬貴大が座っている。
貴大は、自慢の海外ブランドのスーツに身を包み、不快そうに足を組んで椅子に背を預けていた。
初めこそ、大きな事務所に緊張感を隠せない様子を見せていたが、それもすでに落ち着いている。
詩織が雇うのだ。どうせ無料か低価格で雇える程度の弁護士だろうと高を括っているのが、その傲慢な視線からありありと伝わってきた。
「おい詩織、いい加減にしろ。こんなお遊びに付き合っている暇はないんだ。さっさと荷物をまとめて家に帰ってこい。お前みたいに気弱な貧乏介護士が、一人で生きていけるはずがないだろう」
貴大の言葉を、鷹木が冷たく遮る。
「成瀬貴大さん。おっしゃる通り、ここはお遊びの場ではありません。私は詩織さんの正当な代理人です。依頼人である彼女を侮辱するのはお控えください」
鷹木はそう言うと、手元にあった分厚いクリアファイルを開き、中身を机いっぱいに広げた。
資料の最初の一ページを視界に入れた途端、貴大の余裕に満ちた顔が一転し、紙のように白くなる。
彼の喉が、不自然に引き攣った。
「これは、あなたが隠していた不誠実な行為の証拠資料です」
鷹木の規律正しい声が室内に響く。
「特定の風俗サービスの利用履歴、および、あなたが店側に提出した希望プレイのアンケート表の写し。さらに、担当した相手の証言です。あなたは『赤ちゃんプレイ』と呼ばれる、幼児退行のふりをしながらの行為を希望する、極めて特殊な嗜好をお持ちですね」
貴大は、顔を青くしながらわなわなと震え始める。
「こ、こんなの嘘だ。俺じゃない、俺が……いや、こんな客の情報をペラペラ喋るなんて犯罪だろ!」
「訴えたいなら、このサービス店や女性側をどうぞ」
貴大は詩織の方を向く。
「違うんだ詩織。これはでっちあげられただけで本当は俺じゃない。エリートの俺がこんな趣味なわけ……」
鷹木が割って入る。
「矛盾してますね。今、ご自分の情報を漏洩されたと怒っていらっしゃったのに。さて、続けましょう。同時に、こちら。現在、同じ職場の五十代の女性職員と、頻繁にホテルを利用されている事実も確認しております」
何枚かの写真が提示される。
寄り添う壮年の女性と貴大。そのままホテルに入る様子。手を繋いで出てくる様子。キスする写真。
「違う! た、体調を崩して、彼女が、それで少し休憩を……」
「体調を崩しただけで、キスをする必要はありますか? こちらの女性も既婚者ですから、いわゆるダブル不倫に該当しますね」
貴大の額からは汗が滲み、組んでいた足が小刻みに震え始めた。
公務員であることに自信を持っていた貴大。
外では誠実さや爽やかさを演じながら、その実、極度のマザコンで年上好みの気があり、それを世間から隠すために詩織と結婚したという歪んだ本性が次々と晒されていく。
鷹木は貴大に反論の隙を与えない。
次に取り出したのはICレコーダーだ。誰か知らない人と、義母の声が流れてくる。
『成瀬さん、最近どう? 貴大くんお元気?』
『散々よ。本当にひどい嫁でね、たかちゃんが全部、家事を押し付けられてるの。もう私、かわいそうで』
『あらぁ。大変ねぇ』
『きっと、うちの遺産やたかちゃんのお給料だけが目当てなんだわ。あの子はエリートな公務員だから』
『変な女に引っかかって、可哀想に』
『その上、石女よ。孫も産めないなんて本当ハズレ嫁だわ』
「あなたのお母様が、近隣の住民に対して言いふらしていた、根も葉もない詩織さんの悪口の証拠データです。家事ができない、遺産目当て、不妊といった発言。これは、明確な名誉毀損に該当します」
詩織は、動揺して視線を彷徨わせる貴大を、真っ直ぐに見つめた。
「ち……そうじゃない。わかるだろ詩織……母さんは悪気があったわけじゃなくて」
貴大は手を伸ばそうとする。