バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
だが、彼の言葉を遮るように鷹木は言った。
「以上の事実に基づき、早期の離婚の請求、および不倫の慰謝料として三百万円。さらに、詩織さんが全額立て替えていた一年分の家賃と生活費として二百万円。そして、実質的な別居状態であった期間に遡り、婚姻費用として百万円。計六百万円を請求いたします」
「な、バカにしてるだろ、お前。そんなの高すぎる、ありえない! 訴えてやる!」
「どうぞ。すべて裁判記録による現実的なラインです。疑問があるなら算定表をお出ししましょうか?」
「な、う……」
「もちろん調停にしていただいても結構ですが、時間がかかる上、引きのばせばのばすほどあなたが支払うべき婚姻費用は増えますね。……ああ、ついでに申し上げれば、お相手の女性に慰謝料を請求しないのは、あなたの職場に対する詩織さんの配慮ですよ」
貴大は力なく椅子に座り込むと、ぼうっとした視線で詩織を見つめた。
「……満足か。俺をコケにして」
薄ら笑いを含んだ声。
詩織はきゅっと口元を結ぶと、小さな声を出す。
「今日、少しでもあなたが後悔してくれていたなら『慰謝料はいらない』と言おうと思ってた。結婚したいと思った私の夢を叶えてくれたのは事実だから。でも……」
喉の奥が熱くなり、指先が小さく震える。
しかし、詩織はうつむかない。いびつにゆがむ顔で、彼を見据えた。
「結局、言い訳しか出てこないのね」
悲しさと情けなさでいっぱいになる。
プロポーズの時に26本の薔薇をくれた、優しかったはずの彼の面影が、目の前の醜悪な男の顔と重なって完全に消えた。
詩織の言葉に、貴大の顔が屈辱で赤黒く染まる。
ふらふらと立ち上がったかと思うと、鋭い視線で詩織をとらえた。
椅子を蹴り飛ばす。
血走った目で長机を回り込み、詩織に向かって猛然と掴みかかろうと腕を伸ばした。
「このっ」
詩織は恐怖で息を止める。
その時。
一分の隙もない速さで、鷹木が詩織の前に割り込んだ。
鷹木は貴大の突き出された腕を鮮やかに捕らえると、その身体をねじ伏せるようにして壁へと押しつけた。
「ぐぁ……っ」
「私の依頼人に触れるな」
鷹木の低い声が、部屋の温度を極限まで下げる。
規律正しい表情をたたえた彼の目の奥に、凄まじい気迫が宿っていた。
鷹木は、貴大の手首を引き絞るようにして、さらに声を低める。
「暴行の現行犯だな。訴えてやろうか」
ひややかな鷹木の言葉に、貴大の身体から完全に力が抜けた。
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