バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
数日後。
空が青く晴れ渡った良い日だ。
区役所の重いガラス扉を出たところで、詩織は大きく息を吸い込んだ。
手元には、受理された離婚届の控えがある。
きっかり六百万円。入金を確認したその足で届けを出した。
こんな大金、支払って貰えないのではないかと不安に思っていたのだが、滞りなく振り込まれた。
『支払いを渋れば財産の差し押さえを訴え出る』という鷹木のひと言が効いたのだろう。
驚異的なスピードで離婚が成立したのは、鷹木の凄まじい手腕のお陰だ。
名実ともに成瀬から解放された。
旧姓に戻った詩織は、一年ぶりに自分自身の人生を取り戻したような、深い充足感が全身を満たしていくのを感じた。
「……お疲れ様でした、朝比奈詩織さん」
隣を歩いていた鷹木が、足を止め、詩織に向き直った。
その表情は、面談室での厳しい弁護士の顔とは全く違う。
少しだけ柔らかく、どこか懐かしむような温度が含まれていた。
詩織は、彼に呼ばれた名前に、ふと奇妙な違和感を覚えて首を傾げる。
「私、旧姓を名乗りましたっけ?」
書類のやり取りはあったものの、彼があまりにも自然に昔の苗字を呼んだことに驚いた。
鷹木は、うっすらと微笑みを浮かべ、その切れ長の瞳で詩織をじっと見つめた。
「覚えていない? 高校生の頃のこと」
高校生の頃。
鷹木……タカギ。
古い記憶の扉が、勢いよく開いていく感覚が走った。
弁論大会だ。
緊張のあまり真っ青な顔で震えていた、一人の少年。
目の前に立つ、隙のない弁護士の面影に、あの日の少年の輪郭が、鮮やかに重なっていく。
「……あ、タカギくん! 東京のT高校のタカギケイくんって?!」
詩織が驚愕で目を見開くと、鷹木は少しだけ照れたように視線を揺らす。
そして嬉しそうに頷いた。
「そう、俺だよ」