バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
昨年までは出番前には楽屋で集中していた鷹木だが、今年は客席にいた。
彼女の弁論を聞きたかった。
『介護士のあたたかさにふれて』というタイトルが会場にアナウンスされる。
一人暮らしをしていた彼女の祖母が介護施設に入所し、そこで働く介護士たちとの心の交流を通じて、少しずつ元気や人間らしさを取り戻していく。
その過程が、彼女の口から一生懸命に語られていた。
技術的な雄弁さではなく、彼女自身の優しさと真摯さがそのまま言葉になって会場を満たしていくような、そんな不思議な弁論だった。
彼女の太陽のように明るい笑顔と、温かい心が伝わるような心地よい声が、鷹木の頭から離れなくなる。
「……朝比奈、詩織さん」
パンフレットに印刷された名前を初めて声に出して呟いた瞬間、胸の奥から全身に向けて、ぶわりと熱いものが広がっていく。
恋に落ちた。
ハッキリと、そう感じた。胸の中に広がるあたたかさと、何とも表現しがたいむず痒さ、ぎゅっと心臓を掴まれるような甘い痛み……。
生まれて初めて知る、感情だった。
セロトニンが功を奏したのか、その後の自分の出番では余計な緊張をすることなく壇上に立つことができた。
結果は、目標にしていた三冠の達成。
盛大な拍手の中での表彰式が終わり、賞状を抱えたまま、会場を奔走する。
朝比奈さんにお礼を伝えたい。
ロビーの遠くの方に、あの小柄な後ろ姿を見つけた。
駆け寄ろうと足を踏み出したその時、彼女のすぐ隣に、一人の男が歩み寄るのが見えた。
「詩織!」
手を上げながら親しげに名前を呼ぶ男に向かって、彼女は、非常階段で見せたのと同じ、ひだまりのような笑顔を向けた。
その親密な様子に、一歩を踏み出す勇気が出ない。
気後れしているうちに二人の姿は人混みの向こうへと消えていった。
遠い記憶の向こうに置いてきた、淡い初恋の顛末だ。
*
「もし叶うなら、もう一度会いたいと思っていたんだ。君に」
区役所の前。柔らかい風が吹く中で、鷹木は真っ直ぐに詩織を見つめる。
その引き締まった唇から溢れ出たのは、それまでの仕事上の規律正しい声とは全く違う、ほんのりとした熱を帯びた響きだ。
詩織は目を丸くしたまま、しばらく言葉を失っていた。
目の前にいる、上等なスーツを嫌味なく着こなした美形の弁護士と、あの日の非常階段で真っ青になって震えていた少年が、どうしてもすぐには結びつかない。