バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
第6話:むしろ?
一筋の、大きな風が吹き抜けていく。
鷹木に両手を包み込まれたまま、詩織の内面は大きな嵐にさらされたようだった。
ドクドクと耳の奥で心臓の音がうるさく鳴り響き、足元がふわふわと浮き立つような感覚に襲われる。
成瀬貴大。一年間、自分を縛り付けていたあの暗い影から今まさに解放されたばかりの身だ。
それなのに、目の前に立つ鷹木からこれほど真っ直ぐに好意を向けられるなど、どう感情を処理していいのか全く分からない。
詩織の唇は小さく震えた。
「あ、あの……それはどういう」
消え入りそうな声で問いかけるのが精一杯だ。
鷹木の手のひらから伝わってくる熱が、詩織の乾ききっていた指先をじわりと侵食していく。
「高校生の頃から詩織さんの事が好きだった。ずっと。もう一度会えたら、気持ちを伝えたいと思っていたんだ」
鷹木の声は少しだけかすれている。
からかっているのではない、真剣そのものだ。
その切れ長の瞳がじっと自分だけを映していることに気づき、詩織の胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「あ、の……」
次の言葉が出てこない。
みるみるうちに熱が顔へ昇り、詩織の肌が真っ赤に染まっていく。
それを見た鷹木は、自分の強引さに気付いたように、慌てた様子でぱっと詩織の手を放した。
「ごめん、急に驚くよな。あの、ようやく詩織さんがあの男から解放されたと思ったら嬉しくて、つい」
鷹木は大きく手を振りながら、これ以上ないほど狼狽している。
弁護士としての仕事をしているときの鋭さ。相手に付け入れさせる隙を与えない、見えないバリアを張られたような雰囲気は、欠片もない。
耳の付け根まで真っ赤にして視線を泳がせている姿が、高校時代の、あの非常階段で緊張に震えていた少年の姿に重なる。
「離婚したばかりだし、次のことなんて考えられないと思うけどでも……俺がそういう気持ちでいるんだってことを、知っておいてほしい」
そこまで一気にまくしたてると、鷹木は急に言葉を詰まらせた。
返事のできない詩織の沈黙を拒絶と捉えてしまったのか、彼の肩が小さく内側にすぼまる。
みるみるうちに、弱気な表情へと変わっていく。
「……ごめん、気持ち悪いよな。急にこんな話されて……」
そのひどく傷ついたような、怯えるような瞳を見た瞬間、詩織は我に返ってぶんぶんと首を横に振った。
「いえ、気持ち悪いだなんてそんなことないです! その……正直まだ、離婚の現実味もなくて、あまりいろいろ考えられなくて……」
「本当に? 気持ち悪くない?」
「はい。むしろ……あ、いえ」
あわてて言葉を止める。
鷹木は再び、詩織の手を取った。
「言って。お願い。むしろ?」
「あの……う、うれしい、です」
消え入りそうなほど小さな声で、必死に言葉を返す。鷹木はほっと胸をなでおろすように息を吐いた。
そして、どこか縋るような真剣さを瞳に宿し、わずかに背を屈めて視線を合わせる。
「ありがとう。……じゃあもし詩織さんが嫌じゃなければ、その……友達からでもいいから、初めて欲しい」
全方位負けなしの豪腕弁護士が、まるで宝物をねだる子供のように必死に「友達から」と食い下がった。
その不器用ながらもまっすぐな誠実さに触れ、詩織の心の中に張り詰めていた氷のような緊張が、じんわりと雪解ける。
自分の価値を見失いかけていた詩織にとって、彼が向けてくれる純粋な好意は、何よりも大きな救いのように感じられた。
「……本当に、お友達からでもよければ」
詩織がはにかむように微笑むと、鷹木の顔が一瞬で輝く。
「もちろん、友達から! ああ、やった、嬉しいな」
身体の大きな大人の男が、声を弾ませて素直に喜びを表現する。
そのギャップが可笑しく、詩織の胸のざわめきは心地よいものへと変わっていった。