バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
*



 アウディが滑らかに走る。

 寮まで送ってくれると申し出てくれた鷹木の言葉に甘え、詩織は大人しく車に乗った。
 車内は、清潔感のある香りがする。鷹木のシャツから香るものと同じだ。移ったのかもしれない。そんな想像をして、詩織は少しだけ、頬を染めた。

 鷹木は、助手席に座る詩織の様子を確認しながら、穏やかな声で話しかける。

「寮の住み心地はどう?」
「おかげさまで、快適です。引っ越しを手伝ってくださって、本当にありがとうございました」

 詩織はシートに深く背を預けながら答えた。
 用意されたアパートは築年が古いもののリフォームされておりキレイだ。一人で過ごすには十分すぎる広さもある。

「とんでもない。快適なら良かった」

 鷹木は短く応じると、ウィンカーを出して曲がった。

「心配なことや不安に思うことがあったら、すぐに言って。依頼人のアフターフォローも弁護士の役目だと思っているから」

 仕事としての顔を使いながらも、その言葉の裏には、詩織を一切孤立させまいとする深い配慮が滲んでいる。

「ありがとうございます」

 詩織は運転する鷹木の横顔を見つめながら、静かに感謝の言葉を口にした。





 車は、詩織が暮らす借り上げアパートの前へと静かに停車する。

 エンジンが切れ、少しの静けさが車内を包み込んだ。
 詩織がシートベルトを外し、車のドアノブに手をかけようとした時、鷹木の心地よい低い声が耳を揺らす。

「詩織さん」

 詩織は隣を振り返った。
 彼もシートベルトを外し、詩織の方へと身体を向けていた。

「すぐに気持ちの切り替えは無理だとわかっている。でも」

 もう一度、彼の大きな手が、詩織の膝の上に置かれていた手をそっと包み込む。
 指先から伝わる確かな温もりと、わずかな震え。
 一人の男としての想いと、詩織の傷ついた心を一番に尊重しようとする慎重さが混ざり合った空気。そして、詩織を優しく包み込み捕らえて離そうとしない空気が、車内をあたたかさで満たしていく。

 鷹木の切れ長の瞳に、吸い込まれそうなほどの輝きが宿っていた。

 詩織の心臓が、再びトクンと跳ね上がる。

 この人は、自分をただ一人の人間として認めてくれている。深く、大切に守ろうとしてくれている。
 鷹木の強さと温かさに、詩織の心は抗うこともできずに強く惹きつけられていく。

「絶対に傷つけない。大事にする。だから、弁護士の俺も、友達の俺も、どっちも頼ってほしい」

 二人きりの空間に満ちる彼の誓いのような言葉が、詩織の耳の奥に深く、消えない刻印のように染み渡っていった。
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