バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
第7話:トラウマ
「斉藤さんすごい、先週よりも一歩多く歩けてますよ」
デイサービスセンターのリハビリ室に、詩織の弾んだ声が響いた。
手すりをつかんで一歩一歩、熱心に足を動かしていた高齢の女性が、詩織の言葉に顔をほころばせる。
「ええ、そお?」
「はい。先週は十二歩でしたが、今日は十三歩です。ということで……来週は十四歩を目指しましょう!」
「そんなに歩いたら冥土に行っちゃうわよぉ」
斉藤のユーモアに富んだ返事に、スタッフからも笑い声が沸き起こる。
あれから、ひと月ほどが経った。
詩織は、生来の笑顔を取り戻しつつある。
斉藤がホールへと戻るのを見届けてから、汗を拭った。隣でカルテを整理していた同僚の作業療法士が声をかけてくる。
「どう、最近は。少し元気が出たみたいに見えるけど?」
「お陰様で少しずつ。今は、すごく仕事が楽しいです」
詩織は、自分でも驚くほど明るい声で応える。
「良かった。前から仕事熱心だと思ってたけど、でも最近は特に、朝比奈さんの内なる気合いが伝わるんだ。利用者さんを自然に笑顔にしてるっていうか……斉藤さんもだけど、リハビリを頑張ろうって気にさせるのが、本当に上手くなったなと思うよ」
「そうでしょうか。そうだったら嬉しいなぁ」
詩織ははにかむように微笑んだ。
利用者さんが元気でいてくれたら嬉しい。笑顔になってくれたら、誰かの役に立てているのだと実感もできる。
そうして仕事に邁進することで、詩織は少しずつ、心の足場が固められていくような気持ちになった。
だが、一年かけて抉られ続けた心の傷は、そう簡単に消えるわけではない。
たとえば仕事中、誰かが何かを落として大きな音がしたとき。
ーーガシャン!
詩織はびくりと肩をすくめてその場に立ちすくんでしまう。
心臓が嫌な速さで脈打ち、冷や汗が背中を伝う。元夫が食器や本などを投げつける時の音が脳裏をかすめ、呼吸が浅くなった。