バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
――ガシャン!
鋭く激しい音が室内に響き渡り、詩織は反射的に目を閉じた。
おそるおそるまぶたを持ち上げると、目に入ったのは破片だ。ワックスがかけられたばかりのフローリングの上に、丁寧に盛り付けられていた肉じゃがや焼き魚が散乱し、お気に入りの皿が割れて飛び散っている。
「ふざけるな! おかずは5品用意しろと言ってるだろう!」
頭上から降ってきたのは、夫である成瀬貴大の怒号だ。
外では常にスマートで人当たりの良いエリート公務員を演じている男は、唾を飛ばしながら叫んだ。
貴大の実家のすぐ近くに借りたマンション。
この部屋の中では、彼の機嫌がすべての法律だった。
「す、すみませんでした」
詩織は喉の奥から消え入りそうな声を絞り出し、床に膝をつく。
恐怖で指先が激しく震え、割れた皿の破片を拾おうとするたびにカチカチと小さな音が鳴った。
貴大は週に1回しかこの家に帰ってこない。
しかし、いつ帰るのかは本人がその日の気分で決める。帰宅の有無を、事前に知らせることは一切ない。
にもかかわらず、詩織は毎日、彼がいつ帰ってきても良いように完璧に部屋を掃除しなければならなかった。
いつ帰るかわからない夫だが、彼が帰ってきた時には、出来立ての食事を出さなければならない。その時に出すべきおかずは5品以上。
今日は1品足りず、副菜代わりに即席の漬物を出したのだが、それが気に入らなかったらしい。
厳しいルールの元で、詩織は神経をすり減らしながら生活していた。
心も体も、すでに限界だ。このままでは、いつか本当に息ができなくなってしまう。
恥を忍んで、友人に相談した。
高校時代の同級生である彼女は『気付いてあげられなくてごめん』と泣いた。そして、弁護士に相談することを勧めてくれたのだ。彼女の叔母も利用したことのある、信頼できる事務所だから、と。
*