バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
楽しい時間は瞬く間に過ぎ、車がアパートの前へと静かに停車する。
車を降り、夜の静けさが満ちる道で、詩織と鷹木は向き合った。
「今日は、食事に付き合ってくれてありがとう」
鷹木が柔らかく微笑む。
「いえ、こちらこそいつもすみま……」
詩織がいつものように恐縮して頭を下げようとすると、鷹木は小さく首を振って、その言葉を遮った。
「ダメだよ詩織さん、こういう時は何て言うって約束したっけ?」
わずかに悪戯っぽく細められた彼の瞳に見つめられ、詩織は顔を赤くしながら、以前交わした小さな約束を思い出す。
「……ご馳走してくださって、ありがとうございました」
詩織が小さく、しかし真っ直ぐに感謝を伝えると、鷹木は満足そうに深く頷いた。
その時だ。
ーーカラン、カラーン……
アパートの近くに置かれた自動販売機の裏から、ガサガサと激しい物音が響き、誰かが硬い缶を蹴る音が夜の闇に鋭く轟いた。
「ひっ……!」
詩織の身体が、恐怖で硬直した。
貴大が激昂して物を投げつけてきたときの光景が鮮烈に脳裏に思い出され、息が止まる。全身が硬直し、目の前が真っ黒になる。
迷いのない力強い腕が、詩織の身体を横から強く抱き寄せた。
鷹木の胸の中にすっぽりと包み込まれる。視界が、彼のワイシャツの白さで満たされる。
ふわりと漂う清潔な香りと彼の体温が、詩織の全身を包み込んだ。
外界の恐怖から完全に遮断されたような感覚に、詩織は彼の胸に必死でしがみつく。
「……猫だな。走って行ったよ」
鷹木は詩織の耳元で、静かに、言い聞かせるように呟いた。
「あ……猫」
詩織の身体から、力が抜けていく。
ふらりと崩れそうになる足元。それを再び、鷹木が支えてくれた。
鷹木の広い胸に耳を押し当てる。
トクトクと力強く、しかし落ち着いた心臓の鼓動が伝わってきた。その頼もしさに、詩織の心の強張りが、ゆっくりととけていく。
鷹木は詩織を安心させるように、背中を、大きな手でさすってくれた。
震える詩織のすべてを包み込むような、鷹木の深く凛とした声が、詩織の耳元で紡がれる。
「大丈夫だ。俺がいる」
温かい抱擁と誓いの言葉。
彼の声を聞いていると、心の底から『この人と一緒に居れば安全なのだ』と感じられる。同時に、どうしようもなく鷹木に惹かれていく自分を止められなかった。