バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
第8話:あわい2
「ケアマネージャー、ですか?」
仕事がひと段落したところで、上司に呼ばれた。
差し出された書類には『ケアマネージャー資格取得講習』の文字がある。
「うん。朝比奈さんも実務経験の年数要件をクリアしたから、そろそろどうかなと思って」
実務経験、五年。
福祉系の学部を卒業し、新卒としてこの施設へ配属されてから、それだけの時間が経ったのだ。
「もちろん、ケアマネを取っても現場で働いていいよ。でも選択肢は多い方が、この先のためになると思うんだよね」
この施設が好きだし、利用者さんたちと過ごす毎日は楽しい。しかし、介護は体力仕事だ。いつまで現場で活躍できるかはわからない。
ケアマネージャーの資格を取り、支援の仕事ができるようになることを目標にする人が多いのも事実だった。
「うちの会社は勉強のサポートもあるから。資料を読んでみて」
「ありがとうございます。考えてみます」
詩織は書類を大切に抱えた。
こうして将来のことを気遣ってくれる上司がいるのは、幸せなことだ。
きつい、汚い、危険。
そう言われて久しい介護士の仕事だが、詩織は自分にとっての天職だと思っている。
日々の丁寧なリハビリ運動を経て前よりも多く歩けるようになる人がいたり、レクリエーションや活動を一緒に楽しんで元気になってくれる人がいると、大きなやりがいを感じた。
誰かを支えるこの仕事に就こうと決めた原点は、遠い記憶の中にある。
昔、大好きな祖母が入居した高齢者施設で、詩織は初めて『介護士』という職業の人に出会った。
彼女はいつでも丁寧で優しかったが、時に毅然とした態度で、甘える祖母に自立を促す厳しさも持っていた。
もう一生歩くことは叶わないと思い込んでいた祖母が、その介護士に支えられ、車椅子から椅子まで数歩だけ自力で足を動かしたとき、彼女は祖母と抱き合って喜んでくれた。
詩織の胸は震えた。
ただ身の回りのお世話をするだけではない。
人に生きる元気や、一歩を踏み出す勇気を与えてくれる素晴らしい仕事だ。
深く感銘を受けた詩織は、その介護士に関する作文を夏休みの自由研究として提出した。
すると、熱心な国語の先生が『良い内容だ。添削をするから、弁論大会に出てみないか』と声をかけてくれた。
弁論部がある学校ではないが、臨時の一人部活として許可された。
先生が放課後にマンツーマンで指導してくれるのが嬉しくて練習を重ねるうちに、あれよあれよと全国大会の舞台まで進んでしまったのだ。