バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される

 日を追うごとに、鷹木との距離は少しずつ、けれど確実に縮まっていく。

 この週末は新しく開館した美術館を巡り、そのあと、静かなレストランで早めの夕食を楽しんでいた。
 運ばれてきた温かいスープを前に、鷹木が思い出したようにスプーンを動かす手を止めた。

「来週、出張があるんだ」
「またですか? お忙しいですね」
「いやそうでもないよ、鈴川にくっついて行くだけだから。鈴川が担当している企業の支店が福岡にあってね。挨拶と、軽めの相談ってところかな。二泊の予定。お土産買ってくるよ」

 鷹木はさらりと、ごく当たり前の日常の会話として尋ねてくる。
 詩織としては「お気遣いなく」と言いたいところだ。
 しかし、以前そうして遠慮した際、鷹木がこの世の終わりのように寂しげに眉を下げて悲しそうな顔をしたため、それ以来、断らないようにしている。

「はい。楽しみにしています」

 詩織の返事に、鷹木はニコリと笑った。
 素直に受け取ると、彼は本当に嬉しそうな顔をする。

「帰ったら、今度は少し遠出してみないか?」

 グラスを傾けながら、鷹木がふっと声を低くした。

「遠出……」

 どきりと、詩織の心臓が甘く高鳴る。

「もちろん日帰りで。車を出すから、そうだな……房総の奥の方か、小田原や熱海の方も良いな。あ、海ばっかりだ。山と海はどっちが好き?」

 次から次へと楽しそうに具体的な案を出してくれる彼の様子に、詩織も自然と笑みがこぼれる。

「どっちも好きです。うーん、でも今は海が見たい気分かも。千葉の方ってあまり行ったことがないので、房総でも良いですか?」

 詩織の希望を聞いた鷹木が、嬉しそうに顔をほころばせた。

「もちろん。美味い海鮮をたべよう。プラン、練っておくよ」

 見つめ合う二人の距離は、確実に近づいている。
 詩織の胸の中には、与えられてばかりいることへの申し訳なさと同じくらい、鷹木への温かい気持ちが大きく膨らみ続けていた。



*



ーーガシャン!

 激しい衝撃音とともに、壁に激突したガラスのグラスが砕け散る。細かな破片が飛び散った。

 カーテンが厚く締め切られた成瀬家のリビングは、荒れている。
 弁当柄の詰まったゴミ袋がいくつも置かれ、飲みきったペットボトルや缶が散乱していた。

「クソッ……あいつのせいで、俺の人生がめちゃくちゃだ」

 成瀬貴大は、ビールの匂いが充満する部屋の中心で、髪を掻きむしった。
 額に青筋を立て、狂気じみた光を瞳に宿し床の破片を睨みつける。

「このままじゃおかないからな、詩織」

 低く呪詛のように吐き出された声が、冷え切った部屋の壁に不気味に吸い込まれていった。
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