バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
「ご迷惑をおかけしました」
翌朝、出勤するなりチーフに頭を下げた。
目の下に薄く影を落とした詩織を、チーフは痛ましそうな目で見つめ返してくる。
「あの人、元旦那さんなのね?」
詩織が声を詰まらせながらこくりと頷くと、チーフは眉を深くひそめた。
「朝比奈さんがもういないとわかると、応接室の椅子を乱暴に蹴り飛ばしながら立ち上がって帰ったわよ。本当、とんでもなく最低な男ね」
「申し訳……」
再び謝罪を口にしかけた詩織の両腕を、チーフの手が強い力で掴んだ。
「謝っちゃダメ。あなたは何も悪くないんだから。ね?」
「……ありがとう、ございます」
真っ直ぐな言葉に胸が詰まる。
詩織は消え入りそうな声で答えるのが精一杯だった。
「あの様子じゃ、もうここには来ないと思うけれど……」
職場には来ないだろう。人目もある。だが、家はどうだろうか。
寮の住所は教えていないが、一棟借上スタイルのアパートだ。本気で会社情報を調べれば出てきてしまうかもしれない。
「ご実家は愛知県だものね。……本当のお兄さんには頼れないの?」
心配そうに提案してくれるが、詩織は力なく首を振る。
「兄は大阪で勤めているんです。気軽には、こちらに呼べなくて……」
「じゃあ、他に誰か頼りになる人は? お友達とか」
有希の顔が脳裏をよぎる。だが、彼女は恋人と同棲中だ。迷惑はかけられない。
「……少し、考えてみます」
詩織は小さく答え、部屋を出た。
ロッカールームで着替える。
ポケットから取り出したスマートフォンの画面には、鷹木からの新しい通知が表示されていた。
『おはよう。昨夜からの連投でごめん、もう仕事かな? 今日も一日頑張って』
昨夜のうちにも、いくつかのメッセージが届いていた。
写真の通知もある。きっと、もつ鍋や夜景を詩織に見せようと、細やかに送ってくれているのだ。
夜遅い時間には、鷹木からの着信もあった。だが、どうしても出る勇気がなかった。
メッセージを見たら、声を聞いたら、彼に甘えてしまう。
きっと、泣いてしまう。
鷹木の仕事を邪魔するような事だけは、どうしてもしたくない。
どのみち、明日の朝の便で帰ると言っていた。帰ってきてから、きちんと相談すれば良い。
そう、決めた。
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