バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
第11話:引越し
「くそっ、覚えてろよ!」
掴まれた腕を振り払いながら、成瀬貴大は逃げるように走り去っていった。
足音が遠ざかる。
「良かった、間に合って」
聞き慣れた声が、頭上から降る。
詩織の身体は、鷹木の逞しい腕の中へと強く引き寄せられた。彼の心臓の音が速く、激しく打っているのが分かる。
「ど、どうして……」
詩織は彼の胸に顔を埋めたまま、掠れた声で呟いた。
帰ってくるのは明日の朝の便だと言っていたのに……。
「詩織さんと連絡がつかないし、まさか何かあったんじゃと思って、急いで仕事を片付けたんだ」
鷹木の声には安堵と、まだ収まりきらない緊迫感が含まれていた。
福岡での接待や会議、大切な仕事を、彼はどれほどの無理をして切り上げてきてくれたのだろうか。
詩織の胸が、申し訳なさでいっぱいになる。
「ご、ごめんなさい、わたし……」
謝罪の言葉を口にしようとしたものの、歯の根が合わず、言葉がうまく繋がらない。全身の震えがどうしても止まらなかった。
つい数分前だ。
暗闇の中から貴大が突然目の前に現れたこと。
骨がきしむほどの力で手首を引かれたこと。
そして、大きな拳が、詩織を殴りつけようと振りかざされたこと。
それらすべての衝撃が、結婚生活の中で刻まれた過去のひどいハラスメントの記憶と重なり、頭の中を支配していく。
膝に力が入らない。
「大丈夫。怖かっただろうけれど、もう安心して良い」
鷹木の手が、詩織の背中を大きく包み込むように撫でる。
温かい。
詩織はたまらなくなって彼のシャツの胸元を、ぎゅっと掴んだ。
「……っ」
鷹木はさらに力を込めて、詩織の身体の全てを抱きしめる。
髪に、彼の呼吸が触れた。
何度も、何度も耳元で『大丈夫』という言葉が繰り返される。
彼に守られているうちに、少しずつ、詩織の呼吸は落ち着きを取り戻していった。
詩織の腰を支えながら少しだけ身体を離した鷹木は、断固とした決意を宿した声で真っ直ぐに告げる。
「これ以上、一人にはしておけない。俺の家に来てほしい」
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