バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
「お邪魔します……」
詩織は縮こまるようにして、大理石の玄関を踏む。
連れて来られたのは、都内の中心部にある有名なタワーマンションだった。
敷地に入るまでに何重にも設置された自動ドア、受付にいるコンシェルジュ、専用のキーをかざさなければ目的階のボタンさえ押せないエレベーターの仕組みに、圧倒されるばかりだ。
だが、通されたリビングの大きな窓の向こうに広がる景色は、それ以上の衝撃だった。
「わぁ……キレイ……」
地上のきらめく光が、幾つも重なり合いながら眼下に広がっている。
思わず感嘆の声が漏れた詩織を見て、鷹木はホッとしたように目元を和らげた。
「良かった、笑ってくれて」
彼は手元に持っていた詩織のトランクを静かに持ち上げ、リビングの奥にある扉を示した。
「こっちが客間だから、好きに使って。荷物はここに置いておくから」
「ありがとうございます。すごいマンションですね……」
客室として整えられた美しい部屋を見渡し、詩織が呟く。
鷹木は上着を脱ぎながら実直な口調で答えた。
「セキュリティを基準に決めたんだ。職業柄、知らないうちに誰かから恨まれることも、なくはないから」
ため息が出るほどの広さと豪華さに、詩織の胸には恐縮する気持ちが湧き上がってくる。
「でも、その……本当にいいんでしょうか、お世話になってしまって。あ、お家賃はお支払いします! 私も、慰謝料で貰った分があるから心配しないで」
貴大との離婚の際、鷹木が勝ち取ってくれた六百万円の慰謝料が、詩織の口座には手つかずのまま残っている。
このマンションの家賃がいくらなのか想像もつかなかったが、折半する程度であれば、しばらくは問題なく支払えるだろうと計算した。
鷹木は声を立ててくすくすと言葉を漏らした。
「いらないよ。どうせ部屋は余ってるんだ。一人で住んでも二人で住んでも、家賃が変わるわけじゃないからね。それに、実のところ持ち家だから。家賃って感覚でもないんだよな」
「そう……でも」
何もかもを与えられ、守ってもらうばかりでは申し訳なさが拭えない。
詩織が眉を寄せて俯きかけると、鷹木は一歩近づき、真剣な眼差しで詩織を見つめた。
「あのアパートで、いつやってくるかわからないあいつに怯えながら君が一人で過ごしているより、ここにいてくれた方がずっと安心だ。頼むから、俺の心臓のためにも、ここにいてほしい」
彼の懇願するような声に、詩織の胸が優しく疼く。
「あ、じゃあせめて、家事をします。お掃除やお洗濯、料理もできるわ。お口に合うかどうかは分からないけれど」
出来る限りの労働で返そうと、詩織が提案する。
だが、鷹木は真剣な顔で見つめてきた。
「詩織さん。君が安心して笑っていてくれたら、俺にとってはそれだけで十分だ。何かをトレードしなきゃいけないなんて、考えないでほしい。人間関係って、見返りが欲しいから行う事ばかりじゃないよ。俺は、そう思う」