バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
見返り。
その言葉が、詩織の耳の奥で重く響く。
稼いでいない方が家事をするのは当たり前だ。
女が料理をするのは当たり前だ。
エリートの俺と結婚できたのは幸運だ、お前みたいな地味な女、俺じゃなければ結婚しようだなんて思わない。
だから感謝しろ。感謝の証に、夫に仕えろ。
貴大から一年間浴びせられ続けたその言葉のせいで、詩織はいつの間にか『自分は何かを差し出さなければ、いてはいけない存在なのだ』と固く思い込んでいた。
『安心して笑っていてくれるだけで良い』
『見返りが欲しいわけじゃない』
そんな当たり前の、人間らしい対等な思いやりを完全に忘れてしまっていた自分自身に愕然とする。
胸の奥から急激に熱いものが込み上げた。
「わたし……」
ポロポロと、大粒の涙が頬を伝ってこぼれ落ちる。
鷹木は焦ることなく、静かな包容力で詩織を見つめながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「あのね、詩織さん。俺は君のことが好きだ。君とお付き合いしたいと思っている。でも、君のことが好きだから無理強いはしたくない。詩織さんが俺を好きになってくれたら嬉しいけれど、それだって交換条件みたいに好きになってもらいたいわけじゃない。だって俺にとって一番大事なのは、詩織さんが笑っていてくれることだから」
鷹木の真っ直ぐな言葉が、冷たく冷え切っていた詩織の心を、優しく溶かす。
「詩織さんも、俺のことを好きにならなきゃとか、無理に考えなくていい。そう思ってもらえるように俺は頑張るけど、でも、君の心は君だけのものだ。いつだって、自由でいていいんだよ」
自由でいていい。
その言葉が、詩織を縛りつけていた目に見えない鎖を、断ち切ってくれたような気がした。
鷹木の家で過ごす、初めての夜。
彼に勧められるまま先にお風呂を借りた詩織は、パジャマ姿を少し気にしながら洗面所から出た。
リビングで待っていてくれた鷹木に向かって、小さく頭を下げる。
「お風呂ありがとうございました」
「いいえ。じゃあゆっくり休んで」
「はい。おやすみなさい」
「お休み……あ、そうだ」
詩織が扉を閉めようとした時、鷹木はドアのすきまから顔を覗かせ、楽しげに囁いた。
「寝るときは鍵を閉めておいて。俺……我慢できるか自信がないから」
その顔には、わずかに悪戯っぽく少年のような笑みが浮かんでいる。
もちろん、彼は無理に部屋に押し入ってくるような人ではない。
ユーモアを交え、強張った心を解そうとしてくれるその優しさに、詩織の口元から自然と柔らかな微笑みがこぼれる。
貴大に対する恐怖心が、どこかへ消えていくような気がした。