バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される

「打ちつけた時に切れた膝と、掴まれた腕の手当てをしてあります。外傷は、時間の経過とともに治りますが……怖い思いをされたでしょうから、心療内科の受診もお勧めします」

 白衣を着た医師の穏やかな言葉を、詩織はベッドの上に身を起こした状態で静かに聞いていた。カーテンの隙間から、清潔な白い病室に夜の静寂が満ちているのが見える。

「念の為ひと晩入院していただいて。警察の事情聴取は明日以降にしましょうね。刑事さんにはこちらから伝えておきます」

 医師がカルテを抱えて部屋を出ていく。ドアが閉まると、病室内には再び静けさが戻った。

 ベッドの脇に置かれたパイプ椅子に座る鷹木は、さきほどからずっと黙ったまま、痛々しいほどに眉を下げて詩織を見つめている。
 その手は、自分の膝の上で不自然に固く握りしめられていた。

「ありがとうございました、色々と」

 詩織が声をかけると、鷹木は言葉を返す代わりに、小さく左右に首を振った。

「間に合わなかった。大丈夫だって言ったのに、俺が守ろうと思ったのに……」

 今にも泣き出しそうな声で、鷹木が言う。

「また君に怖い思いをさせてしまった。俺のせいだ」

 後悔の念に押し潰されそうな鷹木の様子を見て、詩織は膝の上に置かれた鷹木の大きな手に、自分の手をそっと重ねた。

「そんなこと言わないでください。鷹木さんがきてくださったから、私、今こうしてここにいられるんです」

 鷹木はぎゅっと唇を噛み締め、重ねられた詩織の手を見つめた。

「車に押し込められるなんて、あんな家に連れて行かれるなんて、どれだけ恐ろしかったか……」

 鷹木の綺麗な瞳に、うっすらと涙の膜が浮かび上がる。
 自分のためにここまで心を痛めてくれている。その姿が愛おしくて、詩織は思わず手を伸ばし、鷹木の温かい頬にそっと触れた。

「聞いてください、鷹木さん」

 詩織は自分の視線を、彼の瞳へとしっかりと合わせる。

「以前の私は、あの人の言葉や仕草に怯えて縮こまるだけでした。逃げ出したいけど動けない、勇気のない人間でした」
「それはあの男が……」
「聞いてください」

 遮ろうとした鷹木の言葉を、詩織は優しい、けれど毅然とした声で制する。

「私、あの人に言ったんです『もうあなたの言うことは聞かない。私はあなたのお世話係じゃない』って。だって、心の底からそう思ったから。私はあの人に何かされても文句を言えない人間じゃない。感情があって、自分の意見があって、それを、遠慮しないで対等に口に出して良い人間なんです」

 鷹木は驚いたように目を見開き、詩織を見つめ返してくる。

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