バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
「すごーい! 斉藤さん、今日は十四歩も歩けましたね」
一週間ぶりに復帰した職場には、いつも通りの穏やかな時間が流れている。
同僚たちは事件のことに深く触れることなく、ごく自然に詩織を迎え入れてくれた。
利用者とのレクリエーション、リハビリの補助、そして入浴の介助。
身体を動かし、誰かの役に立っているという確かな実感が、詩織の心に心地よい安心感を与えていく。
夕方、事務室でマネージャーと向かい合っていた。
「そう、じゃあ受講するんだね」
「はい。せっかくの機会をいただいたので、ケアマネジャーの資格を取ろうと思います。よろしくお願いします」
詩織は背筋を伸ばし、深く丁寧にお辞儀をした。
「期待しているよ、朝比奈さん」
信頼の言葉が、詩織の背中を心地よく押す。
未来への新しい一歩を踏み出したのだと、改めて自覚した。
*
「ごちそうさまでした」
「お腹いっぱいになった?」
「はい。どれも本当に美味しくて、食べすぎちゃいました」
詩織は満ち足りた笑顔を鷹木に返す。
連れてきてもらったのは、都内でも有数の格式高いホテルのレストランだ。
足が深く沈み込むようなふかふかの絨毯に、眩いシャンデリア。はじめは周囲の雰囲気に圧倒され緊張感を隠せなかった。
しかし、鷹木が『迷ったら俺の真似をして』と優しく耳打ちをしてくれたことで、大きな勇気を貰えたのだ。
食事が進むごとに緊張は心地よい高揚感へと変わる。
デザートワゴンまで楽しみながら食事ができたのは、鷹木の洗練された美しい居住まいの中にあった、いつもと変わらない穏やかな会話のおかげだ。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
鷹木はスマートに立ち上がると、さっと詩織の後ろに回り込んで椅子を引いた。エスコートのために自身の左腕を差し出してくる。
詩織は胸が高鳴るのを必死に押さえながら、彼の腕にそっと自分の手を乗せた。
レストランを出て進む。
行きに乗ってきたものとは別のエレベーターへと導かれた。
「慧さん、こっちじゃ……?」
「高層階専用のだよ」
鷹木が低く教えてくれる。
上昇する微かな浮遊感の後、静かに開いた扉の先は、最上階のフロアだ。
長い廊下を進み、カードキーが電子音を鳴らす。
一番奥にあるスイートルームの扉が、静かに開け放たれた。
「わ……ぁ」
一歩足を踏み入れた詩織は、その広さに思わず息を呑んだ。