バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
毎月、貴大から渡されるのは家賃、食費、日用品費すべてを引っくるめてわずか一万円。それに対して、彼が帰ってこない間も借りているマンションの家賃は詩織の口座から容赦なく引き落とされ続けていた。
毎日5品の食事の準備のためにも、お金はかかる。
介護士として資格のある仕事をこなし、どれほど真面目に働いても、手元に残る給与だけでは到底足りない。
独身時代に貯めた通帳の数字は、今や見るのも恐ろしいほどに減っていた。
高名な弁護士への報酬が、自分のような人間に払えるはずがない。断られる恐怖に、詩織はうつむき、冷たくなった指先をぎゅっと握りしめた。
しかし、そんな詩織の不安を払拭するように、鷹木の唇が穏やかな弧を描く。
その隙のない端正な顔立ちに浮かんだ笑みは、どこか彼女の退路を優しく塞ぐような色を帯びている。
「心配しないでください、詩織さん。報酬は……このくらいでいかがでしょう。もちろん、離婚成立後の成功報酬の形で結構です」
鷹木が手元のメモ用紙に素早い手つきでボールペンを走らせ、詩織の前に差し出した。
そこに見えた数字を確認した瞬間、詩織は自分の目を疑う。
『成功報酬:金10,000円』
「いえ、こんなにお安くしていただくわけには行きません。それに通常は着手金も必要だと……」
あまりの破格さに、詩織は慌てて首を振った。
いくら世間知らずの自分でも、弁護士を動かすために必要な費用の相場がこれほど低いわけがないことくらいは分かる。
何か裏があるのではないかと、背中に薄寒いものが走った。
「キャンペーンです」
鷹木は至って大真面目な顔で、さらりと言い放った。
「実のところ離婚は初めて請け負うんです。僕も、もしかしたら色々と勝手がわからないことがあるかもしれません。その時には詩織さんにご迷惑をおかけするかもしれませんし」
「で、でも……」
言い淀む詩織に対して、鷹木は組んだ指先に視線を落とし、極めてビジネスライクな口調で語りかけ始めた。
「先行投資ですよ。企業法務に関する問題、社会的活動に関する事件、人権保護に関わること、相続、不動産売買、さまざまな件を取り扱いました。お陰様で『全方位負けなし』との評判をいただいています。しかし、離婚に関してはこれまで取り扱ったことがありません。どんな案件でも勝つ。私には、その肩書きを裏付ける実績が必要です」
彼の説明には、隙がない。
自分のキャリアをより完璧なものにするため、あえて実績のない離婚案件を安価で引き受けるという。
彼の強い自信が、その理路整然とした言葉から満ち溢れていた。
「一万でも高ければ、千円にしましょうか?」
「いえいえ! お支払いします、一万円!」
これ以上安くされては申し訳なさで押しつぶされてしまう。詩織は身を乗り出すようにして答えた。
「では、契約成立ですね」
鷹木は満足そうに微笑み、契約書を準備し始める。
詩織は胸をなでおろしながらも、彼の仕事に対する凄まじい執着とプロ意識の高さに、ただ気圧されるばかりだ。