バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される

「『介護士なんて底辺の仕事をしているから要領が悪いんだ』『家事の基本すら満足にできないなんて、まともな家で育っていない』と、ことあるごとに言われました」

 粛々とヒアリングが行われた。
 詩織は貴大から受けてきた日々の仕打ちを、記憶の底から手繰り寄せるようにして一つずつ話す。

 週に一度の不定期な帰宅、おかず5品の強要、気に入らなければ皿ごと床に叩きつけられる恐怖、生活費が一万円のみの生活。
 話が進むにつれ、鷹木がキーボードを叩く手がわずかに止まる。

「……信じられない。とんでもないモラハラ男だ。それに皿を投げつけるだなんて、まごうことなき暴力です」
「そう、なんですか?」
「ええ。彼の多くの言葉は精神的DVに該当します。また物を投げつける行為は、たとえそれで怪我を負っていなくとも暴力に値します。そして、生活費が一万円というのも典型的な経済的DVです」

 夫から受ける仕打ちは、一般的にみても酷いものである。
 そう、認めてもらえた気がして、詩織はほっと、ため息をついた。

「……家賃は、どうなっていますか?」

 今度はメモをしながら、鷹木が尋ねた。
 
「お家賃は、私の口座から払っています。その……夫は実家から出たことがなく、家の契約の時に『心配だから君の名前で契約してほしい』と」
「家賃の負担割合はどれくらいです?」
「あ……全て私が」

 初めは、折半で、と言う話だった。
 しばらく経ってから、支払ってほしい旨を伝えるも『僕はほとんど帰らないのに、なんで払わなきゃいけないの?』と言われ、話し合いにすらならずに終わった。

「『払って欲しければ、僕が帰ってきたくなるような家を作れ』と言われました。私なりに、頑張ったつもりだったんですけど……」

ーーバキッ

 何かの音がした。
 詩織が顔を上げると、鷹木が震えている。手に握られたボールペンが折れていた。

「いや、失礼。あまりの言い草に驚いてしまいました。それにしても、最近のペンは作りが簡単で困りますね」

 口では笑っているが、額には青筋が立っている。
 詩織は慌てて席を立った。

「見せてください。怪我はありませんか?!」

 傷が出来てしまったら大変だ。消毒に、ガーゼ、場合によっては救急で医者に…… 
 そこまで考えてから、詩織ははたと、我に帰る。
 握っていた鷹木の手を、ぱっと離した。

「あ、すみません、つい癖で……あの、高齢者の方はちょっとした傷も命取りになることが多くて」

 勤め先の介護施設では、怪我は即対処、報告の重大案件だ。傷が化膿したり、そこから別の菌が混入することは、免疫力の弱い高齢者は絶対に避けなければならない。 
 冷や汗をかきながら言い訳をする詩織を見ながら、鷹木は、柔らかく微笑んだ。

「ありがとう。詩織さんはやはり……優しいですね」

 『やはり』

 その意味は、わからない。
 甘やかな表情で、覗き込むように顔を見つめる鷹木を、詩織は困惑した顔で見つめ返した。
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