バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
ーーカチャカチャ、カチャ
キーボードを叩く鷹木の指先は、いつになく軽快だ。
コンコン。
短いノック音がして、執務室の扉が開く。
「鷹木くん、例の準備書類って……」
「あ、所長。今ちょうどお持ちするところでした。こちらです」
席を立ち、整えられた厚い書類の束を手渡す。受け取った鈴川はその場でペラペラとめくり、目を細めた。
「わぁ、バッチリだね。さすが鷹木くん、完璧だ」
「恐れ入ります」
「今回の担当裁判官は西園寺さんだっけ?」
「ええ」
西園寺裁判官といえば、最高裁判事の中でも特に規律に厳しく、一切の妥協を許さない公正な人物として法曹界で広く知られている人だ。
「まあ、これだけ揃っているんだ。後はしっかりやるしかないな。これ、預かるよ。もう少し私の方でも見ておくから」
鈴川は書類の束を軽く揺らしながら、満足そうに頷いた。
「そういえば、厚労省の件はどうなってる?」
先日、詩織が何気なく口にした言葉からヒントを得て、助成金の不正受給などを指摘できた件だ。結果として、鷹木は今後も、第三者委員会の外部協力という立ち位置に留まることになった。
まだ、三十路。若輩だ。
参事官は言葉巧みに持ち上げてくれたが、最初から自分が主力として担当できるなどと、大それた期待はしていない。
「担当される山本弁護士に提供するための詳細な資料を作成しているところです。今週中には、私から直接あちらの事務所へ持って行きます」
実力のある先輩弁護士に恩を売っておくのも悪くない。
若いうちから省庁と関わる仕事に顔を出しておくことは、貴重な人脈作りにもつながる。自分があの場で本当の主力として活躍できるようになるのは、おそらくあと十年から二十年は先の話だ。
鈴川は力強く頷いた。
「うん、じゃあそっちもよろしくね。……ところで、鷹木くん」
「はい?」
そのまま部屋を出ていくかと思いきや、鈴川が声をかけてくる。
鷹木が振り返ると、その顔にはニヤニヤとした笑みが浮かんでいた。
「何か、良いことあった?」
「……おかげさまで」
耳の裏がカッと赤くなる。分かっているが、止められるものでもない。
鈴川はそれ以上追及することなく、満足そうな顔をして退室していった。
鷹木は小さく息を吐いてデスクに向き直る。
パソコンで今週のスケジュールを確認し始めた。山本の事務所へ資料を持参するためのアポイントメントを取らなければならない。
「えーっと、面談、裁判所、裁判所、面談……この日の午前にするか。……ん? 何だこれ、田中弁護士と会食?」
来週の夜、全く覚えのない予定が書き込まれていた。