バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される

第3話;コンプレックス


 貴大と結婚して一年。
 一度も、彼に抱かれたことがない。
 それどころか、肌が触れ合うような身体的な接触が、全くないままだった。


 結婚するまでは、何もないことが大切にされていることの証だと思っていた。しかし、結婚後も何もないのだ。
 キスはおろか、抱きしめ合うことも、手を繋ぐことさえなかった。夜の営みなど、あり得るはずもない。

 『少しでいいから、普通の夫婦みたいに手を繋ぎたい。触ってほしい』
 
 そう、貴大に求めたことがある。
 あの時の、貴大の目を、忘れたことはない。
 汚いものを見るような目つきで睨み、そっと腕に添えた詩織の手を振り払うと、床へ突き飛ばした。

 『女のくせに、下品なことを言いやがって』

 冷たく投げつけられたその言葉が、詩織の心に決定的な楔を打ち込む。
 そうして一年。
 詩織は、法律上成人男性の妻でありながら、男性経験が一切ないという稀有な存在になってしまった。

 貴大から受けた多くの仕打ちについて話したものの、このことだけは、どうしても鷹木に言えなかった。




「……ところで、配偶者の方はいつからこのような態度だったのでしょう? お付き合いをされた当初からですか?」

 鷹木が、もとの弁護士然とした顔に戻ったことに、詩織はホッと息を吐く。
 昔を思い出しながら口を開いた。

「初めから、こんな関係だったわけではありません。夫とは、結婚相談所で知り合ったんです。出会った頃は、むしろ優しい人だと思っていました……」

 それまで何人か会った人の中で、貴大は群を抜いて穏やかだった。

 荒っぽさも、刺々しさもない。二人で歩く時には車道側を歩いてくれるし、デート代はいつも少し多めに出してくれた。
 プロポーズの時には、年齢の数ーー26本の赤い薔薇。

 幸せになれると思っていた。
 優しい彼となら、ずっと笑って過ごせると思っていた。それなのに……。
 
 結婚し、新居に越すと彼は豹変した。
 厳しいルールを詩織に課し、ことあるごとに『介護士なんて底辺の仕事をしやがって』と罵る。
 そして、彼は新居には帰らず、実家でそのまま生活した。

 二人で借りた新居。
 そこから歩いて十分ほどの距離に、彼の実家がある。一軒家だ。彼はその家で生まれ、一度も実家を出たことがない。

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