彼はアメとムチがうますぎる ~つめたい上司のあたたかい味噌汁~
「鶏ささみと豆腐の卵とじ丼、それから白菜としめじの味噌汁だ」
木目のテーブルに並べられたのは、見るからに胃に優しく、ほかほかとした温もりに満ちたラインナップ。
トロトロの卵とじ丼の中央には、色鮮やかな三つ葉がちょこんと添えられている。
(この優しいメニューなら……今から食べても胃もたれしなさそう)
「本当はこんな夜中に食べるのは体に良くないんだが……あんな盛大な音を聞かされたら、さすがに無視できん」
向かい合わせに座る私の顔が、一瞬でカッと真っ赤に染まっていく。
恥ずかしさを誤魔化すように、出されたコップの冷たい麦茶をゴクゴクと喉に流し込んだ。
そんな私の狼狽ぶりを見て、魚住さんはわずかに口元を緩める。
「冗談だ。冷めないうちに食べるぞ」
「は、はい! いただきます!」
まずは立ち上る湯気を顔に受けながら、味噌汁をゆっくりと啜る。温かい汁が喉を通った瞬間、体の芯からじわっと生きた心地が戻ってきた。
普段口にする味噌汁よりもずっと色が白く、舌を包み込む上品な出汁と味噌の甘みに、まろやかな優しさが溶け込んでいる。
「すごく美味しい……白菜の甘みとぶなしめじの食感がマッチして、心が落ち着くみたい……」
「……そうだろ」
ひと口目の美味しさに蕩けそうになっている私を見て、魚住さんも自分の分の味噌汁を啜る。満足そうに「うん」と頷き、その味の秘密を淡々と語り始めた。
「関西ではこの白味噌が、よく雑煮に使われるんだ。甘みが強いから好き嫌いは分かれるが……俺は疲れが溜まっているときや胃を労わりたいときに、無性にこの甘くて優しい味噌汁が食べたくなる」
(まさに、今の私に合ってる……)
「大阪に配属されてから、よくこれで味噌汁を作っていたんだ。俺のお気に入りの銘柄でもある」
あんなに仕事では冷徹で嫌な人なのに……こんなにも優しくて甘い味噌汁を愛しているなんて。
あまりのギャップの大きさに、思いがけず胸がキュンと跳ねてしまった。
「次、卵とじ丼も冷めないうちに食べてみろ」
「あ、はい。いただきます!」
トロトロの卵を纏った鶏ささみ、豆腐、そして出汁の染みたご飯を一気に頬張る。
口に含んだ瞬間、優しい出汁の旨味が一気に広がり、さっぱりとしたささみと豆腐の絶妙な食感が食欲を掻き立てた。
「これもすごく美味しいです……とにかく優しくて……」
すっかり乱れてしまった私の生活習慣をそっと包み込んでくれるような、どこまでも温かいこの二品。疲れが浄化していくように、少しずつ私の体を軽くしていく。
その後も一定のテンポで、特に言葉も交わさず食べるのに夢中になっていると、魚住さんはものの五分ですべてを平らげた。
遅れること三分。私もなかなか早いタイムで完食する。
「ごちそうさまでした。久しぶりに……こんな温もりあふれるご飯を食べた気がします」
魚住さんは麦茶をひと口飲んで喉を鳴らすと、コップを静かにテーブルに置き、低く落ち着いた声で語り始めた。
「最初に言っておく。俺がお前にこんなに厳しくするのは、期待しているからだ」
「……期待?」
「ああ。お前なら期待に応えてくれると信じている。一刻も早くこの部署を引っ張る存在へ成長してほしいからこそ、お前にはあえて厳しい注文をつけることになるだろう」
(できることなら……やめてほしいんだけど……)
ここまで正面から期待を口にされてしまっては、「そんなの無理です」なんて弱音を打ち明けることなんてできない。
私にできるのか……私に、成長なんてあるのか……。
その迷いや不安を察したのか、魚住さんはテーブル越しにぐっと身を乗り出し……逃げ場を無くすように、私の目をまっすぐに見つめてきた。
木目のテーブルに並べられたのは、見るからに胃に優しく、ほかほかとした温もりに満ちたラインナップ。
トロトロの卵とじ丼の中央には、色鮮やかな三つ葉がちょこんと添えられている。
(この優しいメニューなら……今から食べても胃もたれしなさそう)
「本当はこんな夜中に食べるのは体に良くないんだが……あんな盛大な音を聞かされたら、さすがに無視できん」
向かい合わせに座る私の顔が、一瞬でカッと真っ赤に染まっていく。
恥ずかしさを誤魔化すように、出されたコップの冷たい麦茶をゴクゴクと喉に流し込んだ。
そんな私の狼狽ぶりを見て、魚住さんはわずかに口元を緩める。
「冗談だ。冷めないうちに食べるぞ」
「は、はい! いただきます!」
まずは立ち上る湯気を顔に受けながら、味噌汁をゆっくりと啜る。温かい汁が喉を通った瞬間、体の芯からじわっと生きた心地が戻ってきた。
普段口にする味噌汁よりもずっと色が白く、舌を包み込む上品な出汁と味噌の甘みに、まろやかな優しさが溶け込んでいる。
「すごく美味しい……白菜の甘みとぶなしめじの食感がマッチして、心が落ち着くみたい……」
「……そうだろ」
ひと口目の美味しさに蕩けそうになっている私を見て、魚住さんも自分の分の味噌汁を啜る。満足そうに「うん」と頷き、その味の秘密を淡々と語り始めた。
「関西ではこの白味噌が、よく雑煮に使われるんだ。甘みが強いから好き嫌いは分かれるが……俺は疲れが溜まっているときや胃を労わりたいときに、無性にこの甘くて優しい味噌汁が食べたくなる」
(まさに、今の私に合ってる……)
「大阪に配属されてから、よくこれで味噌汁を作っていたんだ。俺のお気に入りの銘柄でもある」
あんなに仕事では冷徹で嫌な人なのに……こんなにも優しくて甘い味噌汁を愛しているなんて。
あまりのギャップの大きさに、思いがけず胸がキュンと跳ねてしまった。
「次、卵とじ丼も冷めないうちに食べてみろ」
「あ、はい。いただきます!」
トロトロの卵を纏った鶏ささみ、豆腐、そして出汁の染みたご飯を一気に頬張る。
口に含んだ瞬間、優しい出汁の旨味が一気に広がり、さっぱりとしたささみと豆腐の絶妙な食感が食欲を掻き立てた。
「これもすごく美味しいです……とにかく優しくて……」
すっかり乱れてしまった私の生活習慣をそっと包み込んでくれるような、どこまでも温かいこの二品。疲れが浄化していくように、少しずつ私の体を軽くしていく。
その後も一定のテンポで、特に言葉も交わさず食べるのに夢中になっていると、魚住さんはものの五分ですべてを平らげた。
遅れること三分。私もなかなか早いタイムで完食する。
「ごちそうさまでした。久しぶりに……こんな温もりあふれるご飯を食べた気がします」
魚住さんは麦茶をひと口飲んで喉を鳴らすと、コップを静かにテーブルに置き、低く落ち着いた声で語り始めた。
「最初に言っておく。俺がお前にこんなに厳しくするのは、期待しているからだ」
「……期待?」
「ああ。お前なら期待に応えてくれると信じている。一刻も早くこの部署を引っ張る存在へ成長してほしいからこそ、お前にはあえて厳しい注文をつけることになるだろう」
(できることなら……やめてほしいんだけど……)
ここまで正面から期待を口にされてしまっては、「そんなの無理です」なんて弱音を打ち明けることなんてできない。
私にできるのか……私に、成長なんてあるのか……。
その迷いや不安を察したのか、魚住さんはテーブル越しにぐっと身を乗り出し……逃げ場を無くすように、私の目をまっすぐに見つめてきた。