忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
「そんなことがあったのか、谷口、辛かったな」
教師たちは口々に私を励ました。
「よく相談してくれたわね。もう心配ないわ」
硬直した膝の上の拳に担任が手を重ねてきた。思わず縋るように見上げた。――もう心配ない。
私は震えながら、教師の言葉を心の中でなぞるように繰り返した。
数日後、父は学校に呼び出された。
約束通り教師たちが父を叱ってくれるのだ。
私はひさしぶりに晴れやかな気持ちを味わった。これで父も改心するはずだ。娘の悩みの深さを知って猛省し、若葉さんを家から追い出してくれるだろう。
この日から毎日、一分一秒待った。
けれど父は行動を起こさなかった。
日曜日も、若葉さんの仕事が休みの木曜日にも引っ越し屋のトラックは来ない。再び日曜日がやってきて木曜日が終わってもなにも起きない。時間は穏やかに静かに過ぎていく。おかしい。遅すぎる。どうして。
注意深く観察すると、ふたりは私や弟にばかり話しかけ自分たちは目と目を合わせなかった。なんだかわざとらしかった。
釈然としないまま、担任の女教師に聞いてみた。――この前、父を学校に呼んで何を話したのですか?
担任は正義感たっぷりの表情を見せた。
「もちろん、谷口さんの気持ちを優先してもらうようにお願いしたわよ」
「優先?」
「思春期の娘は潔癖なのに男親はそういうことには疎いから。その後どう? お父さんたち、谷口さんの前でべたべたしなくなった?」
「……」
まさかと思い、中年教師にも同じことを聞いてみた。
「お父さんなあ、おまえに元気がないことを気にしておられたよ。焦らずゆっくり家族になるように頑張ってみるってさ。よかったな」
「……」
学年主任にも聞いてみた。
「谷口はお父さんのことが大好きなんだよな。娘にここまでやきもちを焼かれて、お父さんは幸せだ。先生は羨ましいくらいだ」
「……」
「またなにかあったらいつでも先生に相談しなさい」
気安く肩を叩き、呑気に笑う。まるでなにもかも解決したというように。
私の味方だと励ました口で、よくもそんなことを言えたものだ。そのうちあきらめるからなんて、それまでは我慢して娘のご機嫌取りをすればいいなんて、そんな風に思っていたのか。
失意の中で知った。大人は大人の味方をする。子供を丸め込めると本気で思っている。
私は誓った。二度と大人を頼らない。今度はうまくやる。ひとりでやる、と。
【第一章おわり】