忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
第二章

6.裏切りの予感

 

 ――「ランチ、期待外れだったね」
「味はともかく、あの量はないですよね」
「私は味より値段が納得いかなかったわ」

 昼休憩に出ていた同僚たちが秘書室へ戻ってきた。今年入社の鮎川(あゆかわ)さんが「ただいまです」と臆せず話しかけてきて、私も「おかえり」と答える。 
 それ以外の同僚たちは、小さく会釈するのみだ。
 私は同性との付き合いが苦手だった。つい身構える。それが相手にも伝わらないはずがなかった。

「谷口さん、そろそろご結婚なんですか?」
 けれど今日は珍しく同僚たちが話しかけてきた。
「え?」
 昨日の今日だ、なぜ知っているのか不思議で、その驚きが声に乗るのは当然だと思う。
 否定しない私を見て、皆が訳知り顔になった。
「やっぱり! 実はさっきロビーで可愛い女の子に谷口さんのこと聞かれたんです」
「一緒にいた営業の子が言うには、数日前から谷口さんについて調べてる人がいて、何人かが呼び止められて根掘り葉掘り聞かれたって」
「あれは身辺調査会社だね、じゃあ結婚かなって、みんなで納得してたんで」
「……」
 頭の奥で、不快な金属音が響く。
 誰かが私のことを調べている。
 私が圭介に相応しいか――、確認したい人間は限られている。

「おめでとうございます!」
「よかったですね!」
「……ありがとう」
 祝福ムードが強すぎて礼を言わざるを得なかった。
 ……だけどプロポーズされたし、今日婚姻届を出す約束もしたし、嘘ではない、よね……
 

「谷口さん、メールじゃないですか?」
「!」
 考え事をしていたせいか、指摘されて初めてスマホの振動音に意識が向いた。ありがとう、と礼を言ってそっと画面を見た。圭介からだった。

 ――今日会えなくなった。あと今週会えないと思う。ごめん。あとで連絡するから。

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