忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜


 文面を何度も読んだ。
 行間から伝わるなにかを求めて。

 今日はふたりの将来にとって大切な約束の日だ。
 それをメールで破る圭介と、いつでもストレートすぎるくらいに愛をぶつけてきてくれた昨日までの圭介が、私の中でうまく重ならなかった。

 いたたまれず、思わず席を立った。
 昼休憩が残り少ないせいか、同僚たちが壁の時計と出て行く私を同時に見た。
 だけど、とても平気な顔をしていられなかった。

 トイレへ逃げ込んだ。
 壁に背をあずける。

 ひとつの不安がもうひとつ、またひとつと確信を連れてやってくる。
 私はたまらずに膝を折った。両手で頭を支え、細い息を吐く。
 
 圭介……。
 唇の中でその名を呼んだ。


 “―ほらね、やっぱり”

 私はびくっと肩をあげた。
 空耳……?
 はっきりと聞こえたのに。

 私は両手で腕を抱いた。
 そうして意識はまた、あの頃へ飛んだ。
 昨日からずっと行ったきりになっている過去へ――
 

 
   ♰

 大人に絶望した十四才の私は、目的のために心を偽ることを選んだ。

「若葉さん、いろいろごめんね、今まで」
 したくない謝罪をし、言いたくもないお世辞を言い、笑顔を作った。
「これからは若葉さんと仲良くなれるように私も頑張るから」
 嘘だらけの言葉を伝えると、若葉さんは泣いて喜んだ。私の手を取って揺すり、しまいには抱きしめて言った。ありがとう、私もいっぱい頑張るからね。ぜったいココちゃんを幸せにする。
 細く長い髪から薔薇のような匂いがした。

 その日から私は、若葉さんに近づいた。
 母娘というよりは仲の良い姉妹――のような関係を、築いたふりで。

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