忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
7.記憶の断片(2)
家事が苦手な若葉さんはたくさんのミスをした。そのほとんどは私がちょっと手を加えたものだったけれど、誰もそのことに気づかなかった。
ある日のこと。
私は保健室に運ばれた。
若葉さんが作った弁当に腐ったおかずが混じっていたせいで。
自分で仕込んだそれを口の中に放り込むときはさすがに勇気がいったけれど、家族を取り戻すためには仕方がなかった。
私は脂汗と腹痛で苦しみもがき、迎えを呼んだ祖父と病院へ行った。
祖父に連絡をしたのは計算だった。私たちの新しい生活を静観してきた祖父母は、今までの不満も手伝って若葉さんを激しく責めた。――孫を殺す気ですか!
その言葉に若葉さんはさすがに青褪めた。
父も一緒に叱られた。父はもう一度だけチャンスをください、と頭を下げた。
若葉さんは数日しゅんとしていた。
「若葉さん、一緒にカレー作ろうよ」
私は励まし役に回った。
「お母さんのレシピを教えてあげる」
「ありがとう、ココちゃん」
肩を落としてソファに座り込んでいた若葉さんは、涙を拭って立ち上がった。
若葉さんが買ってきたお揃いのエプロンをしてキッチンに並ぶ。笑いかけると、若葉さん特有のくしゃっとした笑顔を向けてくる。美人なのに親しみやすいのは、この笑顔とドジな性格のせいだ。
「せめてお料理は上手になりたい!」
「料理は慣れだってお父さんも言ってたよ」
若葉さんを元気づけながら手際よく野菜を切った。鍋で炒めて水を加え丁寧にあくを取る。若葉さんは私の手つきを食い入るように見ていた。
「え、そんなものも入れるの?」
目についた調味料を鍋の中に混ぜ入れると、案の定、若葉さんは目を丸くした。
「ちょっと個性的な味になるけど、これがお母さんの味なの」
「そうなんだ」
若葉さんは大真面目な顔で鍋の中を覗き込んだ。
若葉さんは、待っててね、と言って手帳を持ってきた。私が適当に混入した調味料と作業工程を一生懸命にメモしている。
「ココちゃん、これからもいっぱい教えてね、ココちゃんのお母さんの味に近づけるように頑張るから」
またくしゃっと笑って若葉さんはカレー作りに専念する。このレシピが後々の自分の評価を下げるなんて少しも疑わずに。
――「若葉さんのカレーは正直、ひどいよね」
あの『嘘レシピ』を教えたあと、若葉さんが仕事に行っている間に作り直した。