忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
第一章
1.過去から
現実逃避を願ったそばから、どこへ逃がしてもらおうとしているのか、いったい過去のどの地点まで遡ればいいのか分からなくなる。
「もうすぐお父さんが来ますからね」
向かいから声がして私は再び身を固くする。
「楽にしていてね」
ぎこちなく礼を返し、膝を隠している小花柄のワンピースに意識を落とした。
私には似合わない淡い色の服も、脇に置いたレースのボレロと小振りなバッグも、今日のこの日のために揃えた。愛想のない表情を少しでも和らげようと用意したはずなのに、味方になってくれる気はないみたいだ。心細くて、溜息が出た。
「いつもの心菜でいいんだよ」
「……」
圭介の誠実な声色に、心がほんの少し解れる。
圭介と出会った一年前のことを思い出したからだ。
あの頃の私は、二度目の恋が終わった現実に漫然と傷ついていた。だから、前の男とは外見も性格も対極にあった五つ年下の大学生に特別な何か、衝撃や欲求や、たとえば救いのような感情でさえ抱く余裕はなかった。――本当にひどい男だったな、
鮮明に現れた過去に、私は意識を傾けた。
……今頃、昔の男とのことを思い出したって……
……思い出そう。現実逃避、したい……。
この状況から気持ちを逸らせるのならばなんにでも縋りたかった。
そうして私はわざと『過去の恋』を辿った。
――前の男は強面で無口で、硬派な外見を持っていた。
その男が実は不誠実な人間だったことを突きつけられたのは、約三年半の交際が終わる直前だった。
私の職場に男の恋人だと名乗る女が乗り込んできたのだ。浮気相手を片っ端から呼び出していると喚き、七人目の女が私だと、耳を疑うようなことを口にした。突き出された携帯で男と話した。