忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
「……避けてないけど」
「なんかあったんだろ」
「……」
的確に私の精神状態を見抜く幼なじみが煩わしい。
「今のココ、すげえブス顔になってるぜ」
私より数倍可愛い元カレに言われると、赤の他人に言われるより救われない気持ちになる。
「また振られたとか?」
「!」
古傷を抉るのは親しみの裏返しだ。分かってはいても今このタイミングでは残酷だった。
無言のまま歩幅を広げた。なのにヒールの足でもぴたりと付いてくる。
「え? マジなわけ? おまえ好きな男いたの?」
私たちは外灯の少ない住宅街を歩いている。それでも、女の装いで喋る男に通り過ぎる人たちがぎょっとしている。道哉は一切気にしていないけれど。
「なあってば。話してみろって」
ウィッグの髪をかき上げ、片目をつぶって言う。
「……いいって」
「遠慮すんなよ、俺たちの仲だろ。なんなら俺、間に入ってやろうか」
「だから、もういいの。結婚がだめになった。それだけ」
面倒になって言い捨てた。
長いつきあいは意外と厄介だ。元カレを黙らせるには事実を伝えるしかなかった。
「は」
よっぽど驚いたのか、道哉は足を止めた。
「俺、なにも聞いてないけど? どういうこと?」
仕方なく私も立ち止まる。
「終わった話なんだからもういいでしょ」
「いやいやいや、違うだろ」
両手を腰に当て膝をだらしなく開いて片足を投げ出す。
こんなときは素の男に戻るのだ。
再び歩きだしたがガサツな足元は戻らない。可愛い洋服とメイクが台無しだが、触れないことにした。
「つうか結婚まで話が進んでたってこと、今までよく隠してたな。どんくらいつきあってたの? どういう男?」
「……言ってもしょうがないじゃん、もう終わったんだよ」
「そういう問題じゃねえじゃん」
道哉の声色にだんだんと溜息が混じってきた。
私たちは少し、黙って歩く。
「――なあ、まさかまたダメになったときに俺に同情されたくないとか、そういうことか?」
図星を指されて、余計に口が重くなった。
「それで隠してたって……ばかだなあ、おまえ」
「……」
「飲むか」
道哉は自宅マンションを素通りし私の家へ歩いていく。付いていくしかなかった。