忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
家に灯りはなかった。
門扉から二段上がったアプローチで外灯を頼りにバッグの中から鍵を探した。
この家は祖父母が母のために購入したものだ。両親の結婚の条件は『ここに住むこと』――それだけだったと聞いている。
父は物事に固執しない。現状を受け入れる。
だから想像がつく。
若葉さんと別れたときも、父は目の前にやってきた結論に逆らわなかったはずだ。家に入れるとき、「一緒に暮らしちゃえばなんとかなる」と楽天的な若葉さんのひとことをそのまま実践したように、父は開けっ放しのドアを静かに閉めるくらいの何気ない感じで、流れに身を任せる。そのDNAは間違いなく私にも受け継がれている。私もきっと、去っていく圭介を追うことはないんだろう。
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道哉に手伝ってもらい冷蔵庫から酒の肴になりそうなものをテーブルに運んだ。昨日の夕食に作った明太子のポテトサラダとひじきの煮物、肉じゃが。ついでに冷えた缶ビールも二本取る。
「そういえばこの前持ってきた珍味セット、あれは?」
道哉の両親が半年ほど前に北海道へ行った。珍味セットはそのときの土産だった。
「いつのはなしよ。とっくの昔にないって」
何ヶ月も前のことを数日前の出来事みたいに口にされて小さく笑った。
相変わらず私たちには時間の感覚というものがない。数ヶ月会わずにいても十日程度にしか思えなかったり、何年も前の思い出をすぐに取り出せたり。
私に同性の友人がいなくても寂しくなかったのは間違いなく道哉のおかげだ。
「道哉はまだ結婚しないの?」
「ああ?」
ウィッグを外し、荷物の中からハーフパンツとTシャツを取り出して着替えた道哉と、私も並んでメイクを落とす。
「つきあって結構経つよね」
道哉は男に戻り、私は私のまま冴えない表情をさらしている。
「まみちゃんって言ったっけ、今の彼女」
――やっぱさ、あれが本物の女だって思うわけ。俺みたいに作って女やってるわけじゃなくて、滲み出てくるっつうの、可愛さが。こう、見てると胸がきゅ、ってなるんだよな。
そう自慢した道哉は彼女一筋、他の女には目もくれなくなった。
「そろそろ進展あってもいい頃でしょ」
過去に一度だけ会ったことがある。柔らかい印象だった。人見知りな私に一生懸命話しかけてくれて、自分の分のプリンを差し出してくれた。