忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜

9.元カレとの楽な関係


「彼女と洋服買いに行ったり、メイクの勉強会してるって言ってたよね」
「そんな時代もあったなあ」
「今はしてないの?」
「してない。別れたから」
「えっ? なんで?」
「まみの家族にバレたから」
「バレたって、あんたの女装が?」
「そ。あいつの部屋で着せ替えごっこしてたら、兄ちゃんが来た。居留守でやり過ごそうとしたら合鍵で入ってきやがった。ひとり暮らしってことで油断した」
「……」
 道哉が語った修羅場が、私の瞼の裏でも再現された。
 ――勝手に鍵を開けて入ってきたまみちゃんのお兄さんは、道哉が男であることに気づき取り乱し――まみちゃんが必死に宥めた、と。

「本人同士が好きなら、周りのことは関係ないんじゃない?」
 言いながら、胸のあたりが狭くなった気がしてそっと手を添える。
「無理だな。俺、ものすっごく嫌われてるし。変態呼ばわりだし」
「だけどまみちゃんの気持ちは変わらないんでしょう?」
 私の質問には答えず、道哉はぞんざいに言った。
「家族に反対されるような男とじゃ、まみは幸せになれない」
「まみちゃんがあんたより家族を取ったっていうの?」
「まみは悪くないって。結婚はふたりだけの問題じゃないからな」
「……そんなのって」
 圭介のことを考えずにはいられなかった。圭介も、最後の最後で私の手を離した。
 
「だからさ、おまえのことダシに使ったから」
「は?」
「元カノが忘れられないから別れるって言ったわけ。やっぱりおまえとの歴史に敵う女はいないって」
「ばかばかしい。そんな嘘、信じる?」
「ま。こっちはとにかく終わったことだ」
 眉間を寄せた私に、道哉は「さ、飲もう飲もう」と話題を切った。
 
 使い終わったタオルを洗濯カゴに放り込み、鼻歌でも歌いだしそうな軽い口調でリビングへと戻っていく。その強がりな背中が私自身と重なった。
 やせ我慢をしても相手の幸せを願う、それは自分で思うほど格好良くはない。

「ねえ、私たち、より戻そうか」
 思いつきで言った。
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