忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
奇しくも同じ境遇の元恋人同士。幼なじみで親友。互いの性格も過去も知っている。道哉が女装していようと私なら親に反対される心配はない。だいいち、
「楽だからな」
道哉が薄く笑った。
「え?」
聞き返したが、早口の小声はさらりと流れていった。
「それよりおまえのカレシってどういうやつ?」
「圭介のこと?」
反射的に名前を出してしまう。
「おじさんは知ってんの?」
「一応は……知ってる。ここに来たこと、あるから」
「なんだよ、知らないの俺だけかよ」
またむくれる道哉は、じゃあ俺のことも伝えてねえんだな、と意味深な目を向けてきた。
「言ってないけど。でも圭介が、過去の恋愛はどうでもいいって言うから、言わなかっただけで。聞かれたら隠さなかったよ」
圭介に言われたのは事実だ。
――過去があって今の心菜がいるから、元カレのことは気にしないし、聞かなくてもいい。
「カノジョの昔の恋愛が気にならないって、遊んでるヤツなの?」
「そうじゃなくてっ、ずっと男子校で部活を一生懸命やってたって言ってたから。女の子とも一対一よりグループ交際が多かったみたいで」
つい、庇ってしまった。
「ふーん、年は?」
「……ちょっと、下」
「ココが年下と? まったく想像できねえ」
道哉は興味津々でテーブルの向こうから身を乗り出してきた。
「どんなヤツなんだよ」
「どんなって……ひとことで言ったら私みたいに捻じれてない、かな」
圭介の笑顔が浮かんできてしまう。
私は苦しくなって、眉間を寄せた。
「で、結婚がダメになった理由は?」
道哉はビールを飲み干し、温め直した肉じゃがをつまみながら聞いてきた。
「ねえ、次ワインにしよ」
話題を変えるために立ち上がった。
「貰ったスパークリングワインがあるんだけどひとりじゃ飲みきれないし、なかなか開けられなかったんだよね」
野菜室からワインを、棚からグラスを取って戻りコルクスクリューと共に渡す。
「開けて、開けて」
――本当は貰い物の安いワインなんかじゃない。結婚がきちんと決まったらふたりで飲もうと買っておいたとっておきだ。