忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
すぽん、と軽快な音が立った。
「注いで」
道哉を急かした。
爽やかに跳ねる発泡の粒を見る。甘草の香りが控えめな樽香とともにやってくる。
テイスティングの真似事をして道哉がひとくち飲んだ。
「お。結構イケるじゃん。もっと甘ったるいかと思ったら意外とすっきり」
「でしょ」
軽く返した声は、まるで私の声じゃないみたいに遠くに聞こえた。
「――ねえ、道哉」
「ん?」
「世の中にはさ、さくっと幸せになる人がたくさんいるよね」
唐突に無関係なことを話し始めた私に、道哉が不思議そうにしている。
構わずに、頭の中で暴れだす何かを逃がすように、話し続ける。
「小さなトラブルはあるのかもしれないけど、どうにもならないような、そんな悲劇には見舞われなくて、ちゃんと選ばれたり、ゴールに辿り着けたりする。一方で、華やかなことも大それたことも望んでなくて、平凡な小さな幸せでいいって願ってるのに、どうにもならない……最悪な結末しか渡されない人もいて。それは神様が、」
頭が異様に重たくなって、意識して背筋を伸ばした。
「神様が、操作しているって思わない? おまえはまだまだ許されないぞって。おまえだけは幸せにはしないぞって。神様はすごく――私には冷たくて、だから私が幸せに手を出すと、絶妙なタイミングで『サイアク』を投下するんだ。もうそれ、ずっとなのかなあ。ずっと永遠に続くのかなあ」
「ココ、大丈夫か?」
「……」
私は頬で、笑ってみせた。
道哉にではない。
あの“絵本”を子供の頃、偶然という名目で私に読ませた神様にだ。