忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
10.絵本と懺悔
圭介にだけはなぜか、打ち明けることができた。
これまで誰にも話したことがない私に付きまとう“あれ”を。
――私ね、子供の頃に読んだ絵本のことが忘れられないの。
「絵本?」
ふたりで公園を歩いていた。
夏が終わり、過ごしやすい穏やかな風が吹いていた日だった。
「神様が、誕生するのを嫌がる赤ちゃんにこの先に起こる『サイアク』な出来事の数を教えてあげるって話」
「うん」
覚えている限りの内容を、真面目な顔つきの圭介に教えた。
「白いヒゲを蓄えたおじいさんの神様は、眠ってばかりの赤ちゃんに聞くの。なぜ外の世界へ出ていこうとしないのか、と。赤ちゃんは言うの。つらいことがたくさんあるからだ、って」
――――赤ちゃんは、身体を丸め、またまどろみの中に戻ってしまう。
神様は困り果て、秘密を教える。
「『サイアク』な出来事は四回でそれ以上はやってこない」
赤ちゃんは疑って聞く。
「嘘じゃないよね?」
「嘘なものか。わしは神様だぞ」
まだ動こうとしない赤ちゃんに神様は伝える。
広い世界のこと。夢中になって遊ぶだろうおもちゃや遊園地のこと。可愛い動物たちのこと。美味しい食べ物やきれいな音楽のこと。これから出会えるたくさんの友達のこと。そして、大好きなお父さんとお母さんに会えること。
それを聞き、ようやく赤ちゃんは決心して反転する。
神様は小さな光を指して言う。
「あの光の向こうにはたくさんの希望や夢が待っている――」
圭介はじっと耳を傾けていた。
「それがラスト?」
私は、ううん、と首を振る。
「そこから先を覚えてないの」
なのに、読んだ場所に床暖房が入っていたことだけは記憶の中にある。足の裏がしめって、ハイソックスを脱ぎたくてたまらなかった。そのせいか『サイアク』を投下される直前、足元がむず痒くなる。
「私もね、『サイアク』は四回なんだ、それを乗り切ればいいんだって、子供心に覚悟したのよ。でも私の『サイアク』は更新を続けてて」
肩をすくめる。