忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
 
「どうした、浮気でもされたか?」
 道哉の問いかけに、まさか、と答える。
「じゃあ嘘でもつかれたか?」
 ……嘘の方がマシだった。
 膝の間に顔を埋めて言った。
 
「親が結婚を反対したんだと思う」
「なんだそれ。ココのなにが気に入らないっつうの?」
 自分のことでもないのに憤ってくれる親友に、少しだけ救われる。

「私、うまくできなかったから」
「なにを?」
「会話とか」
 あの日の態度を思い返す。石膏で固めたみたいに動かなくなった私の頬も。

「そんなことで結婚がダメになるなら駆け落ちしちまえよ」
「そんな勇気、圭介にはないよ」
 私はそれでもいいと思っていた。だけど圭介は私よりも親を選んだ。ずっと私だけを優先してくれていたのに、最後の最後に手を離された。

「――中学生の頃、お父さんに恋人ができたときのこと覚えてる?」
 道哉は知らない。私がした残酷なことを、なにも。
「ああ、いたよな、確か……」
 道哉は記憶を辿るように目を細めた。

「若葉さん」
 一息に言った。
 この名を心の外に出したのはあの日以来だった。私だけじゃなく、若葉さんが去ってから家族はその名を二度と口にしなくなった。
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