忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
「若葉さんはある日突然やってきて、最初から家族だったみたいに、家の真ん中にいたの」
道哉は突然変わった話題に一瞬怪訝な顔をしたが、黙って聞いてくれた。
「お父さんも弟も、若葉さんの存在が嬉しくて、どうすれば若葉さんに気に入られるか、それを知ろうといつも若葉さんの表情ばかり追ってた。家の中心は若葉さんだった」
「イヤなやつだったんだろ」
「……」
私はうつむいた。
あの頃、道哉にも友達にも若葉さんを会わせなかった。そして若葉さんの悪口を言い触らした。そうしなければ自分のやっている卑怯な行為に押し潰されそうだったから。
「若葉さんってね、よく笑うしよく喋るし、めげないし、一生懸命なの。顔だけじゃなくて、性格もイライラするくらいカワイイ人で」
道哉が窺うように私を見た。
自分の声が変化していることに自分で気づいている。たぶん、滲んでくる後悔のせいだ。
「あの頃の私がもっと大人だったら、私はお父さんと若葉さんを祝福してあげられたのかな。お父さんがお母さんを忘れてしまうことを許してあげられたのかな」
自分がしたひどいことを誰にも打ち明けずに今日まできた。記憶から追い出してしまおうと、努めた。
「ふたりの幸せを壊した私を神様はちゃんと見てるんだね。私にも同じ想いをしなさいって、結婚したいと思うくらい大好きな相手と結ばれないってことがどれほど苦しいことか、味わってみなさいって」
「ココ、もういい」
溢れて止まらない涙も、罪を洗い流さない。
「わかったから」
道哉の角ばった指が私の頭を撫でた。
恋人関係を解消してから道哉は私の髪や肩に触れなくなった。そんな風に一線を引く彼が今、主義を曲げている。私はいったいどんな顔をしているのだろう。
「その人なんだ」
歯を喰いしばって顔を上げた。
「圭介のお継母さん、若葉さんなんだ」