忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
11.幸せの、隣
知り合ってすぐ、圭介の家庭環境を知った。
「俺、途中まで父子家庭だったんですよ」
告白されたのは、爽やかな晴天が続いていた週末だった。
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駅で待ち合わせて、電車に乗って岬にある公園へ向かった。
芝生のスペースでフリスビーやバドミントンを楽しむカップルや親子連れ、遊歩道で犬を散歩させている人、たくさんの人が初夏の心地良い陽気の中、思い思いに過ごしていた。
私たちは緩やかな傾斜のついた芝生をゆっくりと上がっていった。
遮るもののない空は薄い絵の具を塗ったように優しい水色で、心地良い風が吹いていた。
ゆったりと流れる時間の中、初めて手を繋いだ。
ちょっと厚めの大きな手のひらが圭介らしい温かさで私の手を包み込んでいる。――初めてなのに、懐かしい。それでわかったのだ。彼が私の“特別”だと。男と女の相性は肌を重ねたらはっきりすると言うけれど、手のひらだけでも十分だった。
空いているベンチに座り弁当を広げた。
圭介は「美味しい」を繰り返して、蓋にくっついたサラダの残りまで食べた。
「心菜さんが俺のために作ってきてくれて、ほんと感激でした。でもそれで心菜さんに無理させたなら申し訳なくて……」
「大袈裟。言ったでしょう、私はお料理を作ることが苦じゃないって。昔からやってるから、このくらいは全然大変じゃないし」
食べ終えた容器を重ねながら言う。本当はもちろん、父と弟に作る料理の三倍は手が掛かっている。
「心菜さんの得意料理ってなんですか?」
圭介が身を乗り出す。
「そうだなあ。弟が好きなものが必然的に得意料理になっちゃうのかなあ。ハンバーグとか揚げ物とか麻婆豆腐とか、ご飯がすすむ系」
「弟くん、羨ましい」
「でも本人はファストフードやファミレスの方が間違いなく好きよ。大学生になってようやく私のごはんから解放されたって喜んでる。――そうそう、今はカノジョのアパートに入り浸ってて家にもあまり帰ってこなくて」
「心菜さん、弟くんに会わせてください」
圭介が、突然拳を振った。
「え」
「俺、説教します。自分がどんなに恵まれているかわかってないんですよ。だって心菜さん、弟くんのために青春を犠牲にしてきたじゃないですか。それを当たり前だと思ってるなら間違ってる。俺がガツンと言ってやります」
「まあまあ、落ち着いて」
興奮する圭介をなぜか宥める羽目になった。
「俺が父子家庭だったことは言いましたよね」