忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
最後だけ早口で言って、圭介は話題を戻した。
「とにかく! 俺が弟くんに言ってやります。心菜さんをもっと敬えって。心菜さんがお姉さんだってことに感謝しまくれって。じゃないとぶっとばす……っていうのはえっと」
物騒な言い回しに自分で気づき、圭介は慌てて言い直した。
「じゃないと後悔するぞって」
「ありがとう」
くすくす笑いながら礼を言った。
「圭介くんが弟だったらよかったな。すっごく大事にしてもらえたんだろうなあ。反抗期の苦しみも味わわなくて済んだかも」
――アネキは母親じゃねぇだろ
中学生になると弟の生活態度が乱れた。きつく叱ったとき、声変わりを終えた弟は吐き捨てるように言った。あの頃は私もまだ張り合っていた。泣き虫だった頃の弟の残像があるから負ける気はしなかった。
「母親じゃなかったらなんなの? いまさらお母さんが欲しいとか言っちゃうわけ?」
ちょっと馬鹿にして鼻で笑ってやった。でも弟は真顔を向けてきた。
「欲しかったね。アネキみたいにヒステリーじゃない大人で優しくて美人の母親が」
「!」
若葉さんのことだと直感した。弟は無意識に「欲しい」ではなく「欲しかった」と言った。若葉さんを忘れていない証拠だった。
「うぜぇんだよ」
弟は捨て台詞で去っていった。
それからの弟は反抗期を加速させた。私は罪悪感の中、弟の悪態に見て見ぬふりをした。答えが返ってこなくても話しかけ、睨みつけられても世話を焼き、ただ尽くした。
「圭介くん?」
気がつくと私たちの間に沈黙が流れていた。